松山英樹 日本最強ゴルファー 「努力できる天才」 の素顔

全てはマスターズで頂点に立つために
週刊現代 プロフィール

「俺は日本には戻らない」

この米国生活こそが、これまでの日本のゴルファーとの大きな違いだ。

プロゴルファーで解説者のタケ小山氏が言う。

「日本ツアーを完全に『断捨離』したことが、今の松山の強さにつながっています。JGTOの青木功会長は、今季から日本ツアーの出場義務試合の規定を撤廃し、松山がツアーのメンバーに復帰することを望んでいました。

しかし、松山はメンバー登録しませんでした。普通だったら米国が主戦場でも、日本のツアーメンバーにもなっておこうという気持ちがあっておかしくありません」

世界のトップが本気で勝ちにくるメジャー大会を制するのは技術面だけの問題ではないという。

「かつての中嶋常幸さん、ジャンボ尾崎さん、青木功さんは、海外メジャーを獲れたゴルファーだと思います。それでも3人には帰る場所がありました。おそらく、松山はそれではダメだと分かっている。実際、退路を断って米国に渡ったプレーヤーが、メジャーを獲っています。

ジャスティン・ローズ(英国)しかり、アダム・スコット(豪州)しかりです。一方で欧州ツアーの賞金王に8度も輝いたコリン・モンゴメリー(英国)はメジャーを獲っていません。彼の主戦場はあくまで欧州なんです。

その点、松山には野球のイチローや松井秀喜のような『俺は日本には戻らない』という強い思いを感じます」(小山氏)

 

現在の松山は世界ランキング5位(2月6日発表)。上位4人は全員メジャータイトルを獲得している。先日のフェニックスOPの最終日、18番ホールで見せた松山のドライバーショットは357ヤードを記録。また同大会での『Tee-to-green』(フェアウェイをキープし、グリーンを捉えた確率)は出場者中1位だった。

丸山茂樹をはじめ、これまで日本のプロは小技で対抗せざるをえなかった。だが、松山はショットの総合力で優勝をもぎとっている。

「打ち終わった松山がまるでミスショットしたような表情をしても、ピンそば3mぐらいにナイスオンするというのは、こちらでも有名ですよ。彼は満足するレベルが非常に高い」(米ツアー関係者)

米スポーツ専門チャンネル『ESPN』のゴルフ担当記者、ボブ・ハリグ氏はこう指摘する。

「ヒデキの強みはアイアンショットだよ。飛距離もあるし、安定感もある。ヒデキの問題はずっとパッティングだったが、これを完全に克服しなくても、今回勝てることを示したんだ。実力はすでに認められている。貫禄もますます出てきた。ただし、マスターズで勝つためにはパッティングをさらに向上させなければならないだろうね」

住民票は被災地に

もちろん松山もパッティングが課題だということは十分に分かっている。田中秀道プロが語る。

「感覚的に打っていたパットを、いまはちゃんと姿勢を整えてロボットみたいに正確に打てるように仕上げてきています。機械的に腕を動かして、平均値が高くなるように練習を積んでいます。誰が見ても『これは相当練習したんだろうな』と思わせるほどパッティングスタイルは変化しています。いまの松山に不安材料は一つだけです。

オーバーワークが怖い。昨年末に本人も『練習をやりすぎてしまう』と言っていました。こんなトッププレーヤーは世界でもなかなかいないでしょうね」

大会中も試合後、松山はほぼ最後の一人になるまで練習場に残っていることが多いという。

だが、松山は一人で闘っているわけではない。彼が無理しないように支える「チーム松山」が存在する。

「進藤大典キャディ、飯田光輝トレーナー、通訳兼マネージャーのボブ・ターナーさん、米国参戦当初からこのメンバーは常に一緒で、4年目のいまはとても上手く機能しています。

進藤キャディはコースを熟知していますし、それが今回の優勝を支えたことは間違いない。また大会中に松山は首に違和感を覚えていたようですが、飯田トレーナーが伴っていたからこそ、身体がプレーオフまで持ち堪えたと言えるでしょうね」(前出・舩越氏)

仏頂面のイメージがある松山もチームのメンバーとは冗談を言いながら、あどけない笑顔を見せる。松山もまだ24歳だ。だが、メディアの前で口数は少なく、ましてプライベートについて語ることはほとんどない。

愛媛県在住で日本アマチュア選手権に出場経験もあるトップアマだった父親をはじめ、母親や実姉が取材に応じて、松山の素顔を語ることも決してない。

いったい普段の松山はどんなオトコなのか。

松山の恩師である、東北福祉大学ゴルフ部・阿部靖彦監督が語る。

「先日は優勝が決まるとすぐに『頑張って優勝できました。ありがとうございます』と律儀に電話で報告をもらいました。

松山君は言葉でアピールして表現するのではなく、プレーで自分を表現したいタイプだと思います。

今でも時間が許せば大学へ来て後輩を指導してくれますが、大学の先輩である池田勇太や谷原秀人のように手取り足取り教えるタイプではなく、松山君はほとんど言葉に出さず、手本を見せて、『お前らこういう風にやってみろ』というスタイルですね」

阿部監督は単なるゴルフバカではない松山の一面を明かす。

「住民票を実家の愛媛県松山市ではなく、大学卒業後も東日本大震災の被災地である宮城県に置いて税金を払っているんです。東北楽天の年間シートを買って、被災した子どもたちを招待するなど支援活動もしている。熊本での大地震や茨城県で水害があった時も義援金やチャリティーサイン会を開催しました。

そうした被災地の人々も松山君の応援の輪に加わって、それが彼を支えるモチベーションの一つにもなっていると思います」

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