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日本人はイスラームとどう向き合ってきたか

イメージから知識へ、知識から理解へ
小村 明子 プロフィール

知識から理解へ――これからの課題

日本人にとって遠い宗教文化であるイスラームの理解に限らず、異文化を理解するには、ビジネスがきっかけとなることが多々ある。現地に出向し、あるいは現地の人と折衝する機会を得るためには、当然のごとく、現地の文化を知り理解しなければ円滑なビジネスが推進できないからである。

それゆえ、あくまで戦前にみられたような神道の神々と同一視するということとは異なり、現地の文化や慣行を知るという点から、イスラームの教義を正確に理解することが重視されるようになった。日本人改宗者においても、その理由は何であれ、より正確に教義を知り理解していくようになっていった。

だが、やはり異文化の地でイスラームの教義を実践するにあたり、社会がイスラームの教義に見合っていないことに疑問を持ち、言動などの形式によるものではなく、唯一神アッラーを心から敬えばそれでよいとする「日本的イスラーム」を試みるような改宗者も現れた。

信仰心はもちろん重要であるが、心があるからこそ教義を忠実に守ろうとする言動があるのであって、この試みは成功することはなかった。

その後、1980年代後半から日本は好景気となり、外国人労働者が押し寄せるように来日し、そのまま長期にわたって滞在するようになっていく。彼らの中には当時ビザがなくとも日本への渡航が可能であった国、すなわちイラン、パキスタン、バングラデシュといったムスリムが多数派である国々からやってきた人びとがいた。

その彼らと出会い、結婚した日本人がイスラームに改宗するケースが増加した。結婚をきっかけとして改宗した日本人のイスラーム理解は千差万別である。というのは、配偶者の信仰心の程度によって、改宗者に求められる宗教的行為が違うからである。

例えば、スカーフの着用。日本においては着用しなくとも良いと考える人もいれば、配偶者によっては、アバーヤやニカーブといった全身を布で隠す衣装の着用を日本国内でも求める人がいる。あるいはイスラームに改宗したのだから宗教教義は守らなければならないとして、配偶者よりも厳格に実践している人もいる。

 

そして現在、冒頭でも述べたようにムスリム留学生の増加と、東南アジアからの訪日ムスリム観光客の増加が見られるようになった。

とりわけ注目すべきは、訪日ムスリム観光客への「おもてなし」対応である。空港や観光地、ショッピングモールなどの集客のある施設では簡易礼拝施設を完備し、レストランではハラール対応食を提供するようになっている。それはそれで多文化共生社会の構築への一歩となる。

しかしながら、あくまでビジネスを成功させるための知識の獲得に目的があるので、何が良くて何が悪いのか、ビジネスツールとしての知識にとどまり、理解に導くまでには至らない。

だがその一方で、大学生たちがコンパやゼミの打ち上げの席でムスリム留学生の食事に気を使っている場を見ると、イスラームについての知識のみならず、配慮する姿勢を垣間見ることができる。学生たちはムスリムとの友情を育んでいる中で、自然と理解していくのであろう。

以上、過去から現在に至るまで、日本人のイスラーム理解について述べてきた。時代を下るごとに、より正確に知識を得ていくようになっている。日本人改宗者は宗教教義を実践するために他の宗教と比較することはあっても、イスラームそのものをそのまま理解するようになっている。

だが、非ムスリムの日本人はイスラームについての知識は十分に獲得しているが、様々な目的があるため、あくまで一歩引いたものであることがいえる。またそのために、正確な理解にまで至っているのかどうかは疑わしい。

多文化共生社会を構築するには、ただ異文化を知識として知っているだけでは不十分である。そこから直接体験を伴った理解にまで発展させていかねばならない。その意味では、多くの日本人のイスラーム理解はまだ知識を獲得している段階に過ぎないのである。