周囲1000キロ、誰もいない…北極冒険家が明かす「孤独」の本質

極限だからこそ見える景色
白戸 太朗 プロフィール

極限だからこそ見える景色

そんな彼でも、冒険の始まる瞬間、スタート地点に1人で立ったその時はこれから始まる厳しさと、恐ろしい孤独感が襲ってきて泣くという。

無理もない。周囲1000kmに人はいない。何かあって救助を求めても最短で数日かかる。何があろうと1人で解決できないと生きていけないのだ。でも一通り泣き尽くすと、そこからは淡々と歩を進める。

マイナス50度の中でそりを引き進む過酷な状況で、体重は60日で15㎏以上減る。それでも、そこでしか見られない景色を見られることが幸せだし、孤独はないという。

「確かに物理的には1人。でも、たくさんの方に応援してもらい精神的に1人ではないから耐えられる。都会の人は精神的な孤独を、物理的に群れるという行為でごまかしているんじゃないかなぁ」

この言葉にはあまりにドキッとさせられる。孤独かどうかは物理的なものでなく、精神的なものだと。それがなければ大都会にいても孤独だし、それがあれば北極にいても孤独には感じない。都会に住む我々への重い投げかけに聞こえた。

さらに、冒険の途中は特に何かが欲しいと思わないそうだ。

「そこにあるものがそれだけなら、それ以上のものを望んだりすることはないんですよ。選択肢があるからこそいろいろ望むんでしょうね」

 

だから、トナカイの肉しかなければそれを食べ、マイナス50度で眠るしかなければ寝る。それ以上でもそれ以下でもない。そこにしかないもの以上は望んでも仕方ないし、そんな気持ちなど湧いてこない。

考えたら当たり前なのだが、選択肢が多すぎる現代社会の生活では常に自分の持ってないものに憧れるばかり。極限の地に立っているからこそ、そんな欲の世界を俯瞰的に見られるのだろう。

冒険とは何のためなんだろう。人間活動に必要なのだろうか?

そんな疑問が彼と話していると溶けていくような気がした。物事をこのくらい真剣に突き止められれば、その真理みたいなものが見えてくる。人間とはすごい力を持っているようだ。そしてそんな経験のシェアこそが、冒険の役目なのかもしれない。

彼との別れ際の言葉。

「では北極から戻ったら、また飲みましょう!」

横で聞いていた人には意味が分からなかっただろう。そんなことなど気にもせず、彼は人混みに吸い込まれていった。