男はあくまでも受け身
いまから36年前、人妻風俗というと、私が味わったような悲劇が多かった。
“人妻”は、官能小説でも成人映画でもひとつのジャンルとして確立していたものの、あくまでも傍流だった。
1971年上映、『団地妻昼下がりの情事』(日活/主演・白川和子)が大ヒットしたが、人妻物はその後、量産されたわけではなく、白川和子の団地妻物もわずか2作品のみだ。
70〜80年代はまだまだ処女が尊ばれる時代であり、主流は女子高生、女子大生、非処女の代名詞である人妻は脇役だった。
トルコ風呂(当時の名称)やファッションヘルスといった風俗店で、風俗嬢が既婚者であることを客に公言するのは御法度だった。仕事になると、夫や子どもは抹消された。

風向きが変わったのは2000年代、風営法が改正され、無店舗型のデリバリーヘルス(デリヘル)が一気に増えてからだった。
“人妻”と銘打った風俗店が人気を集め、いまやデリヘル、ソープでは人妻専門店が幅をきかせている。
「花夫人」「人妻花壇」「マダムハンズ」「真珠夫人」「ひとづまヘブンクラブ」「人妻A子」「上流夫人」「人妻倶楽部」「昼顔妻」「人妻城」「人妻教室」「極上の人妻たち」「脱がされたい人妻」「未熟な人妻」「人妻研究会」「人妻交響曲」……。
既婚を口にするのはタブーだった風俗業界で、なぜ人妻がこれほど人気を集めるようになったのか。
ひとつには、不況風があげられる。
1991年バブル崩壊、2008年リーマンショック。
日本経済はデフレの海に漂い、男たちは給料カット、リストラに脅え、守りに入った。風俗に支出する額は抑えられ、デフレはいまなお風俗業界を覆い、本番という名の肉交までいけるコースは以前3万前後だったのが現在は1万円台から7千円台にまで下がった。
懐の寒くなった男たちは女に何を求めるのか。
過去1ヵ月間にセックスしていないセックスレス夫婦は、14年の31.9パーセントから16年には47.2パーセントに増えている(「日本家族計画協会」発表)。
理由は男性が「仕事で疲れている」、女性は「面倒くさい」。
世の亭主たちは疲れているのだ。
官能小説の老舗誌『特選小説』(綜合図書)の畠山健一編集長が証言する。
「官能小説ではいま、男が受け身のものが圧倒的にウケますね。男が努力したり汗を流したり、闘ったりして美女をモノにするという内容はウケません」
AVも同じだ。
「男が1センチも動かず、努力せず、棚ぼたでセックスできちゃうものがウケるんです。”僕が昼寝してたら隣に住んでる美人の奥さんが上に乗って腰をゆすって欲求不満解消してた”、みたいな」(「ヒビノ」日比野正明監督)
男たちはやさしく包容してくれる女を欲している。それは女子高生でも女子大生でもOLでもなく、人妻だった。