『テルマエ・ロマエ』作者「気に入った本は何度も繰り返し読みます」

この10冊で極貧生活を乗り切った
ヤマザキ マリ プロフィール

開高健さんも大好きな作家です。『ロビンソンの末裔』を読んだときは驚きました。北海道にわたった開拓民の過酷な生活が飄々と綴られるんです。

例えば人が熊に頭を齧られるシーンが「です・ます」調で書かれている。それから印象に残っているのは、冬、温めて抱いて寝ていた「石」を、春になって捨てようとするんだけれど、大事に抱えていたからツヤツヤになっていて捨てがたい、というエピソード。

 

人間って可笑しいなぁと思いますよね。開高さんは物事をダイナミックに捉えながらも、とるにたらない人間の細部を掬う表現がとても上手いです。

開高さんもマルケスも元々はジャーナリスト。ここに紹介した多くの本がそうであるように、私は小説にドキュメンタリー要素を求めます。事実を元に、さらにフィクションの力によって真実味、面白味を増した作品に、強く揺さぶられるのです。私自身もそういう漫画を描いてきたし、これからも描いていきたいですね。

(構成/砂田明子)

▼最近読んだ一冊

ヤマザキマリさんのベスト10冊

第1位『百年の孤独
ガブリエル・ガルシア=マルケス著 鼓直訳 新潮社 2800円
蜃気楼の村マコンドの創設から興隆、滅亡まで、めくるめく百年の物語。ラテンアメリカ文学ブームを巻き起こした傑作

第2位『けものたちは故郷をめざす』
安部公房著 新潮文庫 入手は古書のみ
敗戦後、旧満州に残された少年が、正体不明の中国人と日本を目指す。「私が映画監督なら、映像化したい作品№1」

第3位『豊饒の海
全4巻(『春の雪』ほか) 三島由紀夫著 新潮文庫 710円(第一巻)
三島が「究極の小説」を目指して書いたという輪廻転生の物語。第四巻の最終回を書き上げた後、三島は割腹自決した

第4位『眩暈
エリアス・カネッティ著 池内紀訳 法政大学出版局 4500円
ノーベル賞作家の代表作。「人間の内部構造をつぶさに観察した本。表現者には必読書」

第5位『ハドリアヌス帝の回想
マルグリット・ユルスナール著 多田智満子訳 白水社 3200円
病に伏した皇帝が自らの治世、旅、愛した人の死を振り返る。類い稀なる人間の内省の物語

第6位『ロビンソンの末裔
開高健著 新潮文庫 入手は古書のみ
敗戦後、北海道にわたった開拓民の過酷な現実と自然との苦闘を、感傷を交えず綴る

第7位『老人と海
ヘミングウェイ著 福田恆存訳 新潮文庫 430円
「戦う老人とカジキマグロの間には敬意がある。両方とも、地球に愛されていると感じる」

第8位『族長の秋
ガブリエル・ガルシア=マルケス著 鼓直訳 集英社文庫 800円
「モデルは著者と親しかったカストロ。ダイナミックな人間の在り方が凝縮された作品」

第9位『シリウス』
オラフ・ステープルドン著 中村能三訳 ハヤカワ文庫 入手は古書のみ
人間と同等の知能を得た犬の物語。「他と異なるものを持ってしまった人間の物語でもある」

第10位『異邦人
カミュ著 窪田啓作訳 新潮文庫 460円
「受け止められなさと向き合った作品。世界に不条理が満ちている今、読まれるべき」

週刊現代』2017年2月25日号より