「脳が壊れた」文筆家のその後の生活を追った、異色の闘病記

「キャラの濃い」天才作家たち
生島 淳 プロフィール

昭和を生きた人たちからの重厚なメッセージが、手紙という軽やかな文章で語られる。

それにしても、昭和がどんどん遠くなっていく。

2月1日に浅草まで立川談春の「明烏」を聴きに行った。廓ばなしは、今の世の中では分かりづらくなってしまって……というマクラがあり、吉原に近い浅草で「明烏」をかけるのが談春ならではの演出、粋だろう。

明治元年は1868年に始まったから、江戸時代はおよそ150年前の話だが、明治と平成をつなぐのが杉浦日向子の作品群だ。

 

彼女が亡くなってもう12年が経ってしまったが、今回、単行本未収録のエッセイ、漫画が集められたのが『江戸を愛して愛されて』。

自分が年齢を重ね、歌舞伎や落語、そして時代小説により多く接して「江戸疑似経験値」が上がっていくと、杉浦日向子の作品がどんどん面白くなってくるが、未だに発見が多い。

たとえば、「江戸の初春」では、13日頃から正月支度を始め、30日には終えるのが江戸の習わし。大晦日は父親が手持無沙汰なので、「蕎麦でも打つか」となって、みんなでゆっくり食べるのが年越しそばの本来の意味だった(それが今や年末のトラディショナル・ファストフードの趣き)。

杉浦日向子はお正月の東京を愛した。空がきれいで、道がすいている。「日本の首都ではなく、生まれ育った土地としての東京が、年に三日、顔を出します」。

今の東京は、もっとせっかちになってしまった。杉浦日向子が生きていたら、きっと、悲しむだろう。

週刊現代』2017年2月25日号より