「祖父は反戦政治家」安倍首相が決して語らない、もう一つの系譜

「安倍三代」を辿って、見えてきたこと
青木 理

恐ろしくつまらない男

取材の成果は「AERA」誌で約10回、断続的に連載し、それに大幅な追加取材と加筆修正を施す形で先ごろ『安倍三代』(朝日新聞出版)として上梓したから、興味のある方は拙著をぜひお読みいただきたいと思う。ただ、核心部分の一端はここで紹介しておきたい。

失礼ながら、恐ろしくつまらない男だった。少なくとも、ノンフィクションライターの琴線をくすぐるようなエピソードはほとんど持ち合わせていない男だった。誤解してほしくないのだが、決して悪人でもなければ、稀代の策略家でもなければ、根っからの右派思想の持ち主でもない。むしろ極めて凡庸で、なんの変哲もなく、可もなく不可もなく、あえて評するなら、ごくごく育ちのいいおぼっちゃまにすぎなかった。

言葉を変えるなら、内側から溢れ出るような志を抱いて政治を目指した男ではまったくない。名門の政治一家にたまたま生を受け、その“運命”やら“宿命”やらといった外的要因によって政界に迷い込み、与えられた役割をなんとか無難に、できるならば見事に演じ切りたいと思っている世襲政治家。

その規範を母方の祖父に求めているにせよ、基礎的な教養の面でも、政治思想の面でも、政治的な幅の広さや眼力の面でも、実際は相当な劣化コピーと評するほかはない。

だからこそ、逆に不気味で薄ら寒い日本政治の現在図が浮かびあがってくる。このような男が政界の階段をあっという間に駆け上がり、父方の祖父も父も射止められなかった宰相の座をやすやすと射止め、しかも「歴史的」な長期政権を成し遂げつつあるのはなぜか。戦後70年、営々と積み重ねてきた矜持が、劣化コピーのごとき世襲政治家の後づけ的思想によって次々と覆されてしまっているのはいったいなぜか。

政権や政権の主ばかりを批判していてもどこか詮無い。課題や問題を抱えているのは、政治や政権の側ではなく、むしろそんな為政者を戴いてしまい、「歴史的」などと評される執権を許してしまう日本政治のシステムと日本社会の側にあるのではないか——それが1年以上にわたる取材を終えた私の感慨である。

(文中敬称略)

母方の祖父・岸信介を慕う安倍晋三首相には、もうひとつの系譜がある―。気鋭のジャーナリストが、誰も知らない「三代目」の姿を照らす(amazonはこちらから)