地方都市の「非正規雇用」急増と格差拡大〜安定を望むことはできるか

構造的問題を解き明かす
貞包 英之 プロフィール

流動化する雇用の可能性

以上のように、地方でのサービス業の拡大は、非正規化した職や格差を増大させてきたが、悪い影響を及ぼしたとばかりはいえない。

第一にそれが、地方に留まり働く可能性を拡げてきたことも事実だからである。

これまで地方の雇用環境が安定していたのは、逆説的にも職がみつからない多くの人びとを都会に追い出してきたからである。農家の長男、または商店の跡継ぎとして生まれるか、成績優秀で大工場への就職を斡旋されるかでなければ、多くの若者は地方を出るしかなかった。

対して現在は、地方に留まり働く道はまがりなりにも拡大している。

サービス業の成長に伴い、少なくとも高卒の若者たちは、都会に出なくとも職を自分でみつけられるようになった。それが近年、若者を中心に近年地方に留まる人びとが増加するひとつの背景にさえなっている(参照:「日本人が『移動』しなくなっているのはナゼ? 地方で不気味な『格差』が拡大中」)。

 

第二に、「安定」の意味を元から再考する必要がある。

大企業に終身雇用的に勤めることは、必ずしもこれからの「安定」を保証しない。大企業でも倒産の危険が大きくなっていることに加え、一つの会社にいることは転職の可能性をしばしば狭める。そのため労働状況や職場環境が厳しくなった際には、耐えるしか道は残されなくなってしまうのである。

そうではなく一定の転職可能性をもち、職場で嫌な目にあったり、会社が潰れかけていたりする場合に、他の職や地方に移動できる可能性こそ、これからの「安定」のために大切になるのではないか。

地方都市におけるサービス業の拡大は、少なくともその芽を育てている。たまたま新卒で就いた職に縛られるのではなく、転職し、時代やライフスタイルに合わせ仕事を変えていくこと。

それを実現するために、多くの課題が残ることも事実である。

たとえば正規労働者と非正規労働者のあいだの「身分差」とさえ呼ばれる雇用環境の格差を解消する必要がある。戦後日本は、福利厚生やセーフティネットを企業に依存し設計してきた。大企業の保護を離れると、途端に貧弱な労働環境に追い出されることになり、それが転職や起業の壁になっているのである。

こうした「身分差」を見直すことが、まず先決の課題になる。

退職金や厚生年金、福利厚生等を、非正規やテンポラリーに働く人にも平等に解放すること。マイナンバーが導入された今では、労働時間に合わせて年金や福利厚生を配分することも技術的には不可能でないはずだが、それができていないことで多くの人が、企業の枠を出て自分でキャリアをコントロールする「自由」を潜在的に奪われている。

さらに欲をいえば、高賃金で、もう少しフレキシブルに働ける仕事が増える必要があるだろう。

一定の報酬を受け、また自分で時間が調整できる仕事。コストコが全国一律の賃金を保証したことや、アマゾンの在宅カスタマーサービス勤務の待遇の良さが少し前に話題になったが、それらを例として、交通環境やテレワーク的環境の発展とともに、地方でもより自由で、また適切な報酬を受けることのできる仕事が(現状では恵まれた人に限られているとはいえ)たしかに現れ始めているのである。