鈴木 企業の合併、統合の目的は、こうした「グローバルに戦う」といったものばかりではなく、じり貧の企業がくっついて「防戦」するという意味合いもあります。
小笠原 その意味で、私が今後5年で確実に出てくると思うのは、日本郵船と商船三井の合併です。それぞれ'16年度の営業損益の予想が約255億円、約150億円の赤字。スケールメリットがモノを言うこの業界で、もはや一緒にならなければ、競争力が低すぎてにっちもさっちもいかない。
昨年秋には、両社に川崎汽船も加えてコンテナ船舶事業を統合しています。「歴史的転換」と言われ、1100億円のシナジー効果があるとされました。このままの勢いで企業そのものの統合も視野に入ってくると思う。
鈴木 ほかに、国内でじり貧になっていく業界と言えば、百貨店です。地方都市に支店を出すモデルは完全にアウト。次々と店を閉め、リストラを行う「負の仕事」が残っています。
小笠原 追い込まれる中、合併の話が出てくる可能性はあると、私は思います。'07年、生き残りをかけてJ.フロントリテイリング(大丸松坂屋百貨店、パルコを傘下に持つ)が発足したという前例もありますから。
現在百貨店で生き残っているのは三越伊勢丹と髙島屋ですが、新たに持ち株会社をつくって両社をその下に置けば、それぞれのブランドは残り、財務も改善するでしょう。人員的な効率も良くなります。三越伊勢丹と髙島屋だと、そこまで地域競合もしない。
鈴木 私は、百貨店はそれぞれが業態を大きく変えていくと思います。旗艦店だけが優良顧客を相手に一級の品を扱うビジネスを行う。つまりイギリスの老舗高級百貨店「ハロッズ」を目指します。その一方で、店を閉めて空いた一等地で不動産ビジネスを行う。
中野 両社とも新宿に一等地があるのだから、お客がつかなくなっても不動産で食っていけるというわけですね。ニトリやユニクロに入ってもらえばいいんですから。
鈴木 小売りでの合併で、「やるならいましかない」と私が考えるのは、コンビニ再編です。店舗数のみならず製品開発力でも圧倒的なセブン‐イレブン・ジャパンを前に、現状のままでは、ローソン、ファミマがお互いの客を食い合ってしまう。
そこで、店舗運営のうまいファミマの澤田(貴司)社長と、商品開発が得意なローソンの玉塚(元一)CEOがお互いに補い合えば、セブンに対抗できる可能性が出てくる。
「ローソン・ファミマ連合」は、国内で3万店舗を超え、中国や東南アジアでも店舗の大部分を占める、いわゆる「ドミナント戦略」が可能となる。澤田、玉塚両氏はユニクロ→リヴァンプという経歴も一緒。
ファミマは伊藤忠系、ローソンは三菱系と、「水と油」だから「ありえない」と言われそうですが、この二人にはそれを超えるエネルギーがあるのではないか。
中野 政策的な事情から、いままさに変化が始まろうとしているのが信託銀行です。金融庁は、「地銀合併」に続くテーマとして「銀信分離」を推し進めているようで、信託銀行から銀行業務を完全に分離すべきという考えです。
鈴木 最も目をつけられているのが、積極的にビジネスを行ってきた、独立の信託銀行・三井住友トラストHD(傘下に三井住友信託銀行)です。
中野 そんな中行われた、三井住友トラスト傘下の資産管理銀行と、みずほFG傘下の資産管理銀行の合併は驚きでしたが、たしかに三井住友トラストにとっては賢い戦略です。
みずほFGは相対的に信託部門が弱く、グループ全体として比較的穏やかな社風。三井住友トラストは存在感を示せるし、仮にグループ同士が合併する場合にも、影響力を保持できるという考えがあるはずです。
一方、三井住友FGは存在感のある信託部門を持っておらず、従来から三井住友トラストとの統合を狙っていたはずですから、ショックは大きかったでしょう。