君はもう、『1984年のUWF』を読んだか?

発売即重版。話題の一冊を特別公開
柳澤 健

柔道部顧問との決闘

1984年の夏、プロレスラーを目指してトレーニングを続けていた中学2年生は、週刊化 されてまもない『週刊ゴング』を読んで衝撃を受けた。

春に誕生したUWF(ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)に、元タイガーマス クの佐山聡がスーパー・タイガーと改名して参戦。藤原喜明、前田日明、髙田伸彦ら新日本プ ロレスの中でも先鋭的なグループが、三角絞めやチキンウィング・フェイスロック、クルック・ヘッドシザースなど、聞いたこともない名前の技で戦っていると書かれていたからだ。

一流レスラーのマーク・ルーインが、まだ若手の域を出ていない髙田伸彦にコテンパンにされたという記事を読むと「そうだよな、ロープに飛ばすプロレスが、UWFの関節技にかなうはずがない」と納得した。

さらに新しかったのはキックだった。考えてみれば、プロレスラーがいきなりロックアップする(組み合う)のはおかしな話だ。 組む以前に、離れた間合いで打撃戦になるはずではないか。

これまで、自分はプロレスを必死に擁護してきたけれど、思えばプロレスは変なことばかり だった。

ロープに跳ぶと戻ってくる。5カウントまで反則が許され、凶器攻撃も見逃される。両者リングアウトやフェンスアウトもおかしなルールだ。ところが、UWFにはそれらすべてが存在しない。キックと関節技で戦うUWFは、既存の プロレスとは根本的に違う。

木戸修が加入し、格闘技ロード公式リーグ戦で優勝したときには確信を抱いた。これまでのプロレスはやはり演劇の一種だった。役者の世界だから、藤原や木戸のような地味で職人肌のレスラーの出番がなかった。UWFは真剣勝負だからこそ、新日本で不遇だった彼らが活躍できるのだ。

UWFは〝シューティング・プロレス〟を名乗っている。シュートとはレスラーが使う隠語 で、真剣勝負という意味だそうだ。

ついに真剣勝負のプロレスがUWFで始まったんだ!

「いま、東京でシューティングっちゅう、えらいことが起きてる。俺たちもやろう。波に乗り遅れるぞ!」

興奮した中井は、サッカー部のプロレス好き数名を熱心に口説き、彼らは中井の誘いに即座に乗った。

こうして、北海道の公立中学に真剣勝負のプロレス団体が誕生した。団体名は〝シューティング〟である。休み時間や放課後に、体育館のステージに仲間たち数名が集まる。ルールはUWFと同じ。サブミッション(関節技)レスリングに打撃を加えたものだ。拳で殴るのは禁止だが、張り手 もキックもOK。レガースがないので、サッカーのストッキングにすね当てを入れて代用した。

中井が負けたことは一度もなかった。体格は大きくないが、鍛え方が根本的に違う上に、誰よりも深く関節技を研究していたからだ。

UWFはテレビで放映されていない。だから映像を見たことは一度もない。雑誌の写真で見たUWFの関節技を記憶して、次の試合で試す。小さな一枚の写真だけで技の全体像を理解することはとても難しかった。

プロレス以外の関節技も採り入れようと、太極拳などの武術の本を探した。『別冊ゴング』にメキシコのルチャ・リブレの関節技が紹介されていた時には、大いに参考にさせてもらった。 中学を卒業したら、自分はUWFに行くのだ。UWFのレスラーが使わない技を知っておけば、きっと有利になるだろう。

サッカー部の仲間たちとの戦いに飽き足らなくなると、中井は柔道部員との異種格闘技戦に挑んだ。

「誰の挑戦でも受ける。柔道部全員かかってこい!」