「下半身論争」を制したトランプの恐るべき会話力

聖書から下ネタまで語るこの男の恐ろしさ
佐藤 優 プロフィール

〈(ルビオは)ディベートで、移民問題と、貿易問題と、ニューヨーカーの商慣行を槍玉に挙げ、トランプを叩いた。次に、からかってみた。トランプを「いかさま師」と呼び、外見をけなしたのだ。そして、トランプとともに泥沼にはまった。

デトロイトでのディベートで、トランプの「手が小さい」ことについて本人と辛辣なやりとりをし、それがなんと、ペニスの大きさに関するあけすけなやりとりに発展したのだ。ルビオはトランプの手が身長に比べて不釣り合いに小さいと指摘し、「手の小さい男が世間でどう言われているか、知っていますよね?」と言った。

トランプはこの餌に食いついた。「この手を見てくれ、これが小さいか? 彼は俺の手のことを持ち出してきた―手の小さい男は、別のものも小さいに違いないと言いたいんだ。保証するが、問題ないよ。保証する」

この下品な冗談は、トランプの勢いにはほとんど影響しなかった。だが、ルビオのほうはたちまち転落の渦に呑みこまれ、べそをかきながら退場した。トランプは46%近い票を集めてフロリダを制し、対するルビオは27%で、選挙戦から撤退した〉

トランプは、政治を含む公の席では語ってはいけないとされていた事柄について語ることによって、これまで政治に関心を持っていなかった人々の支持を得ることに成功した。

 

しかし、このルビオの例でわかるように他の人が「下品さ」でトランプと勝負を試みても負ける。なぜそうなるのだろうか。

アリゾナ州ピオリアの代議員ロリ・ハック(主婦)の見解が興味深い。この州では勝者総取りシステムが取られているので、代議員は州の予備選挙の勝者であるトランプに投票しなくてはならない。

〈予備選の結果に拘束されずに投票させてほしいと主張したが、州の共和党委員長はそれを認めず、「もうけっこうだ」と言い渡した。ハックは代議員の地位を剥奪され、トランプに投票する意向を表明していた人物に差し替えられた。(中略)

指名投票をめぐる対立が過熱したときは、会場内で人々が怒鳴り合うのも目の当たりにした。暴力に発展してもおかしくない状況に見えた。トランプが人々から引き出した感情に、ハックは恐ろしさを感じていた。「これはカルトに他ならない。怒りのあまり人々は冷静な判断力を失っている。トランプは片端から刺激的なことを言い、それが人々の怒りに火をつける。でも、彼の本質に気付いた人たちもきっといると思う」(中略)

とはいえ11月の本選挙で民主党のクリントンに投票する気にはどうしてもなれないので、棄権するつもりだと、ハックは言った〉

確かにトランプの熱心な支持者は、カルト集団の構成員に似ている。明確な対象がない「何かに対して怒っている人々」の感情に火を点け、行動に駆り立てる才能をトランプ大統領は持っている。その結果、世界的規模での大混乱が起きかねない。

週刊現代』2017年2月11日号より