夫ががんで余命宣告…外に恋人のいた妻がそのとき初めて知ったこと

自分らしく生きるということ
植本 一子 プロフィール

初めて恋人がいなくても平気に

私に今、恋人はいない。こんなことは夫と結婚して、いや、する以前からなかった気がする。

私は常に、誰かから恋愛対象として必要とされていないと、自分には価値がないのだと思いこんでいた。だから夫との関係が恋人ではなくなった時、言いようのない不安を覚えた。

これまで1人の人とちゃんと向き合ったことなどあったのだろうか。たった1人の相手を見つけることが「結婚」だと思っていたら、その1人では耐え切れず、結婚前と変わらない自分に辟易していた。

結婚しようとしまいと、自分1人で立っていられると思えたことがない。自分のことでさえ信用できないのに、信用できる人に出会えるはずがなかったのだ。

そんな風に考えていた自分に恋人、まして好きな人さえいない。それでも今は平気だと思える。そのことが嬉しい。

photo by iStock

余命宣告された時、夫は私に「次の人を探さないとね」と言った。夫は私が1人でいられないのを知っていて全てを許してくれているのかもしれない。そのことについて話し合ったことはないが、いつでも私が私であることを一番に考えてくれる人なのだ。

誰にも嘘をつかず、ありのままを受け入れてもらえる。それが可能なのが私にとっては夫という大きな味方であり、一番の理解者だったのだ。それがわかった時、夫の存在はいつまでも私の背中を押してくれるだろうことにも気がついた。

私は自分の人生を生きているだけなのだ。この世の中では、自分というものさえよくわからなくなってしまう。自分が自分として生きることはなかなか難しい。何より、人は1人で立つことが望ましく、それでこその相手との対等な関係だ。

でもそれが難しい時、信用できる人に少しずつ自分を預ける。それは恋人や親子、家族という間柄だけでなく、老若男女、自分が信用できる人なら誰とでもできるのだと思う。私はこれからもそんな関係を築ける人をたくさん見つけたいし、いつかは夫に紹介できる人が現れればいいなと思っている。

夫の癌が発覚した今、私はこれまでで一番自分らしく生きている。

母との絶縁、義弟の自殺、夫の癌ーー。写真家・植本一子が生きた、懸命な日常の記録。
植本一子(うえもと・いちこ)写真家、文筆家。1984年広島県生まれ。2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞し、写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活躍中。著書に『かなわない』(タバブックス)、『働けECDーーわたしの育児混沌記』(ミュージック・マガジン)、『家族最後の日』(太田出版)がある。ホームページはこちら