2017.02.01
# ライフ # 本

夫ががんで余命宣告…外に恋人のいた妻がそのとき初めて知ったこと

自分らしく生きるということ
植本 一子 プロフィール

紙切れ1枚で妻になっただけ

思えば今の夫との結婚も三角関係から始まっている。そのあたりはラッパーであり作家である夫が本に書いて書籍化されているので、読んで貰えば真相はわかるが、私はずっとそんな感じで、結婚しながらも他の男性と付き合っていた。

それは結婚していようが、誰かを好きになる気持ちが抑えられないということでもあった。

人によっては、結婚しているのに「好きな人がいる」というだけでも嫌悪感があるだろう。でも、紙切れ1枚で妻や母になっただけで、自分の内面まですぐに変えられるものなのだろうか。私には出来なかった。

彼と付き合っていた頃の話を、前作『かなわない』に書き出版した時、もちろん賛否両論の声は聞こえてきたが、何より思い出すのは母の言葉だ。母は私が頑張って書いた本のことを、一度も喜んではくれなかった。どこかで内容を察したのか「人の道にそれたことしてないよね?」とだけメールが届いた。何よりも嫌な言葉だなと今でも思う。もちろん本は買うどころか、読んでもいなかった。

そんな母とも今年の夏に絶縁をした。その日をきっかけに今回の本『家族最後の日』の執筆は始まったような気がする。

母について書くこと、思うことは山のようにあるが、いざまともに書くことができたのは、たった1日のことだけで精一杯だった。

読む人によっては母について可哀想と思う人もいるかもしれない。でもその日に至るまでの長い年月が私と母の間にはあり、それは誰にもわからないはずだ。

そこに至るまでに積み重ねてきた、私を苦しめてきたもの。根掘り葉掘り母について糾弾するつもりもない。ただ、私の気持ちは私にしかわからない。

photo by iStock

夫の癌が発覚してわかったのが、これまでは夫に助けてもらっていたということだった。もちろん今回は夫の非常時であり、そんな夫に助けを求めるわけにはいかない。おかしなことだが、夫の癌のことを、真っ先に夫に相談しようとしている自分がいた。

心身ともに疲れきったそんな時、手を差しのべてくれたのは、たった1人の恋人や自分の親なんかではなく、周りにいる人や親しい友人たちだった。恋人がいなくても、母に頼れなくても、たくさんの人が少しづつ私の苦しみを支えてくれた。

そして私にとって夫は、私のことを支えてくれる一番大きなパーセンテージを占めている人間だったということに今更気が付いた。

1人の人に、自分の全てを預けることはできない。これまでの自分は、そんな幻の相手をずっと探していたような気がする。

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