武士が担った革命・明治維新は、なぜ武士の世界をつくらなかったのか

橋爪大三郎×大澤真幸の歴史対談【第一回】
橋爪 大三郎, 大澤 真幸 プロフィール

武士が鉄砲をコントロールする特異さ

橋爪 江戸時代の幕府のシステムが絶対王政かどうか。絶対王政と似ているところは確かにあります。一つは法律です。絶対王政というのは君主が法律を作ることができます。戦国領国、大名というのはいわば立法府なるものを持っていて、領域内で通用する法律を自由に作ることができたから、これは絶対王政と同じ機能を持っていると言えないことはない。

それから経済です。経済というのは権力、政治の介入を排除して、マーケットの自律的な動きでもって、商品経済というのが起こらないといけないんですけど、江戸時代はかなりこれに近いことが起こっていた。経済が自律的に動くと、経済合理性を追求する人々が大勢出てきて、江戸時代の商人というのはその意味で非常に合理的です。

だから、こういう状況ってなかなか生まれないので、江戸時代はそういう要素を大きく持っていたと言える。

だけれど、江戸時代は絶対王政とは大変違ったもので、日本独自の現象であって、だから日本独自のものも普遍的に記述していかないといけないという、特異なものですね。 

どうしてそう思うかというと、まず武士。武士というものは江戸時代になってできたものではなく、中世的なものです。平安末から鎌倉頃に起源を持っていて、以来ずっと武士の集団、行動パターン、原理というのは変わっていない。だから、そういう意味でアルカイックなものです、心性から見ると。

武士というのと、戦国時代に鉄砲が出会っているという点がとても大事。鉄砲というのはだいたいヨーロッパの近世を生み出す原動力になった武器ですけれども、ヨーロッパの特徴を見てみると、まず鉄砲を使うのは傭兵隊です。傭兵隊ですから、身分を問わず、絶対君主が税金を使って雇う連中です。

官僚というのもできるんだけど、これは文官のシビリアンとして雇った、別の家来です。シビリアンと軍人が別になっている。そして、主たる武器は鉄砲であると。激烈な戦争をし、封建勢力、貴族とか、騎士とか、そういうのをみんな追っ払ってしまった。こういうプロセスが何百年かあります。

 

日本の場合、鉄砲を武士がコントロールしているという点が大変特異です。これはとても奇異なことなんです。信長もコントロールしていたし、他の大名もコントロールしていたし、家康もコンロールしている。鉄砲をコントロールって、「入り鉄砲に出女」といって、江戸時代の政策の基本にあるわけですけれども、この鉄砲をコントロールするというところに、江戸時代の深い動機があったというふうに私は思っている。

それはなぜかというと、鉄砲というのは戦闘力を革新し、戦闘力の担い手を交代させ、誰が鉄砲を持ってもいいようにした。鉄砲を持った人に政治権力が移っていくという、こういう大きなドライブがかかるんです。この潜在的な危険性を武士は察知したからこそ、それを禁止し、戦闘そのものも禁止するという、防衛反応をとった。

だから、江戸時代の本質というのは戦闘を抑止するということなんです。それまで一〇〇年間戦争ばっかりで、内乱状態でしたから、この戦争が終わることについては日本人全体の幅広いコンセンサスが得られて、皆、これでいいじゃないかというふうに思った。

既得権を保ったまま平和を実現すること

橋爪 これをヨーロッパと比較してみると、いくつか補助線が引けます。一つはドン・キホーテです。ドン・キホーテというのは近世の絶対王政の時代に出てきた夢想的ロマンチストですね。彼は騎士であって、槍と刀を持って、従者を連れている。  

で、見えない敵に突進していく。もう完全に時代遅れなんです。決闘の時代なんですから。彼はまったくの役立たずで、嘲られるというような、そういう形象ですけれども。それは時代そのものが絶対王政に進んでいることの象徴です。

日本では、刀で戦う人々を嘲り、今は鉄砲の時代だって、こういうことを江戸時代に誰も言えなかった。幕末に、武器が大事だという人は軍学者で何人ももちろん出てきますし、実際に武器は大事なんですけれども。それが常備軍を編成することになったためしがない。それは武士の存在とバッティングするからです。そう人々は確信していたんですね。

このように確信しているたくさんの武士たちがいて、彼らは戦闘員であり、同時に官僚である、統治者であるという、こういう身分。これは既得権ですけど、この既得権を保ったまま平和を実現し、この武士階層をトップにして、平和で繁栄する日本をつくるにはどうしたらいいか、これが幕藩制の基本的動機です

この条件が満たされるのは外国と切断されているということですね。もし外国から知識や武器がどんどん入ってきたら、このシステムは成り立たないわけだから、そういう視野を持って、外国との情報を遮断する。その前の信長や秀吉が考えていた日本のオプションというものを切り捨てて、そして頼朝の時代に逆戻りするという、そういう政府の正統性のやり方を考えているときどう説得するのか。こういう反動的ものだと思う。

大澤 早速、けっこう重要なポイントに入ったので、今のお話に付け加えて、私の返答にしようと思うんです。

…………(続く!)