佐藤優が斬る! スパイから「皇帝」になった男、プーチンの正体

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佐藤 優 プロフィール

その中身はKGBのまま

さらに重要なのは、KGB(ソ連国家保安委員会=秘密警察)時代に身につけたプーチンの行動様式だ。

それをヒルとガディは、「ケース・オフィサー(工作員)」のペルソナと規定する。外交においてもプーチンはケース・オフィサーのような対応をする。

1対1で個人的人間関係を構築する技法にプーチンは長けているのだ。

しかし、それは相手を対等の友人として尊重しているからではない。ロシアの国益にとって操作可能にするためだ。その観点からすれば、私的利益を追求する腐敗政治家は、プーチンにとって利用価値の高い工作対象になる。

前ウクライナ大統領のヤヌコーヴィチがその例だ。

 

〈プーチンから見れば、ヤヌコーヴィチ大統領のあからさまな守銭奴ぶりは、大いに利用できる弱点であり、ロシア側に多大な影響力を与えるものだった。

ヤヌコーヴィチは、1970年代や80年代、プーチンやKGBの同僚たちがレニングラードやドレスデンでターゲットにした外国人そのものだった。その強欲さと罪が、国内外で名声を失うリスクを高め、買収されやすい状況へと彼を追い込むのだ。

プーチンはまさにそこを突いた――ヤヌコーヴィチの側近たちに利害のある不透明なエネルギー取引を結び、ヤヌコーヴィチやその家族と密接な関連のある産業に高利益な発注を出すようロシア企業に促した〉

もっともヤヌコーヴィチが強欲すぎたため、国民の反発を買い、ロシアへ逃亡してしまった。その結果、ウクライナへの影響力を保全するためにプーチンはクリミア併合、ウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州をロシア系武装勢力の支配下に置くという冒険をせざるを得なくなった。

その代償は大きく、ロシアと米国、EU(欧州連合)との関係は著しく悪化した。ケース・オフィサーの感覚で、外交を展開しても、成功するとは限らないのである。

本書を通読してもプーチンの私生活はほとんどわからない。プーチンがプライバシーを厳重に秘匿しているという要素もある。しかし、それよりもプーチンにとって仕事がすべてで私生活の要素がほとんどないというのが実態と思う。

筆者が外交官時代に付き合ったSVR(ロシア対外諜報庁)やモサド(イスラエル諜報特務局)にも仕事がすべてという人がいた。プーチンもあの世界のライフスタイルから抜け出すことができないようだ。

週刊現代』2017年2月4日号より