マンガに出てくるロボットが必ず背負わされてしまう「ある宿命」

異色のロボット「開発」マンガを読む
森山 和道 プロフィール

ロボットものと言いつつも、メカモノに必須のフェティッシュなメカ描写のキレも、制御技術の面白さも、技術開発の醍醐味も、人間関係の面白さやエンジニアたちの意気込みも、じゅうぶん描けているとは言いがたい。

またロボット技術とそれを持つキャラクターたちが世界をどう変えていくのか、ビジネスをどう展開するのかといった話も中途半端だ。世界観自体も貧弱である。何より展開を急ぎすぎていて、あっけなく話が進んでいってしまう。

マンガには色々な側面があるが、あらゆる面において、足りているとは言い難い。一人のマンガ読者としては、そう思わざるを得ない。

「結果」だけを求める主人公マコトに対し…
「結果のためには過程こそ大事」と正論の椎野

何より、主人公のマコトが何をしたいのかが今ひとつよくわからない。自分が開発するロボット「ロビンソン」の性能をひたすら向上させたいと考えていることだけはわかる。だが、それを使って何をしたいのかが今ひとつよくわからない。そもそも、なぜそこまでロボットに取り憑かれているのかもまだ描かれていない。

フィクション、リアル問わずロボットを愛し、ロボットをよく知っている人であればあるほど、そう思うに違いない。

実物のロボットは、作中にもあるように普段はクレーンで吊られていたりする。電源が入ってないとまさに「死んでいる」状態で、大きな人形と変わらない。だがいったん電源が入れられ、起動して動作を始めると、ロボットは途端にそれまでよりも大きく見える。ロボットはコンピューターの一種だが、動くことがロボットの本質だ。

きちんと動くためには、きちんと作られていなければならない。

面白い物語は、理屈が語られる部分と、感情が爆発する部分の両者が絡み合って進む。ロボットアニメがわかりやすい例だが、ロボットものでは、通常ドラマパートが前者で、ロボットが動くシーンが後者に相当する。

「アイアンバディ」は全体がまだきちんと作られておらず、作品自体が足掻いているようにも感じる。あるいは逆にバランスをとることに注意が向きすぎていて、突出した何かが欠けているのかもしれない。もっと極端な部分があってもいいのに、とも思う。

え? 30分!?

ロボット開発マンガという未踏峰

ただ、もっとも近い距離で作品制作を見ている第三者としては、「ちょっと待ってくれ」とも言いたい。

この物語は、まだ発展途上なのだ。これからなのである。

作者の左藤真通さんは今回が初の連載作品だ。取材に付き添っていると、左藤さんがいま、急激な勢いで様々な知識を吸収し、学んでいっていることがよくわかる。

実物のロボットに何ができて、何ができないのか、どんな面白さがあるのか。表層的な知識が、じわじわと左藤さんの腹のなかに溜まっていっているのが感じられる。これはやがて、何らかのかたちで作品に活かされるにちがいないと信じている。

ロボットの実物は身近にはない。ところがフィクションではあふれていることもあって、身近な存在でもある。そのせいか、ロボットを描くことは最初はたやすく思えてしまう。

しかしそれは、遠目から冬の富士山の上のほうだけを見て「あの山は綺麗だ、登るのも簡単そうだ」と言うようなものである。

山に下から登り始めてしまうとほどなく、装備が十分でなかったことに気づく。いや、十分に装備をしたと思っていていても、予想外の出来事が起き、まったく想定してなかった装備=知識が必要になる。

そして想定外の障害を解決するために全力で挑む。この繰り返しである。

目的地は山頂だが、どこまで辿りつけるのかもわからない。いや、そもそも「道」自体がない。何しろそれは、誰も歩んだことがない道なのだから。道自体を開拓しないといけないのだ。

この過程は、ロボット開発それ自体とも共通している。

マコトの夢は叶うのか

マコトは「ロビンソン」と共に山に登ることを夢見ている。

ロボット開発マンガも、いわば誰も挑んだことがない未踏峰だ。何を目印にどのようなペースで歩みを進めればいいのか、どこをどう歩けばいいのか、ルートが確立されていない。

だが登山の醍醐味は、そのルートを模索する過程にこそあると聞く。

マコトたち、そして「アイアンバディ」は、どのようなルートを発見していき、どこまで読者を連れていってくれるのだろうか。私は、意外さと王道の両方に期待している。そして今は、せっかくの難しい題材に挑んでくれた左藤さんを全力で応援したい。そう考えている。

苦しくても一歩一歩。自分の体を持ち上げながら少しでも上へ。上には、誰も見たことがない風景が待っているにちがいない。

(→アイアンバディの第1話はこちら http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50692