爆発する「反トランプ感情」〜米国社会はドロ沼の「文化戦争」へ!?

全米各都市で巨大なデモが…
渡辺 将人 プロフィール

出口なき「文化戦争」に突入か

二大政党制に緊張感を与える意味で、「トランプを認めない者がこれだけいる」という意思表示の意義は少なくない。民主党にとっては中間選挙に向けた支持基盤固めの各派交流になる。

だが、「反トランプ」のデモのアプローチが正しいのかの答えは簡単に出せない。出口のない「文化戦争」に突入する気配もあるからだ。空気はまるで1970年代だ。

今回の全米デモの参加者は「反トランプ」の混成隊である。黒人団体、環境保護団体、人権団体など様々なグループが各自のプラカード(サイン)を掲げている。

しかし、あくまで女性団体主催による「女性の行進」とされている。ソーシャルメディア上の提案が始まりとはいえ、完全に自然発生のデモではなく、「プランド・ペアレントフッド」「エミリーズ・リスト」など女性団体がスポンサーになり、2ヵ月前からネットを通じて組織化した成果だ。

アメリカのフェミニズム運動の独特の特徴は、人工妊娠中絶の権利保持のシングルイシュー運動の色彩にある。今回これだけデモが全米規模で盛り上がったのは、トランプ政権で最高裁判事のイデオロギー配分が保守系に傾き、人工妊娠中絶合法化の判決が覆される懸念があるからだ。デモのプラカードには「私の身体に触れるな」というものが多い。

しかし、人工妊娠中絶を争点にしてしまえば、共和党内の潜在的「同盟相手」を失い、事態は泥沼にはまる。トランプの反移民やムスリム批判には眉をひそめる穏健派の共和党員も、「人工妊娠中絶の権利万歳」と言える人は少ないからだ。

今回の「反トランプ」全米デモでは、ヒラリー陣営のスローガン「愛はヘイトに勝つ(Love trumps hate)」を掲げる人も多くいた。賛否両論あったあのスローガンだ。

trumpは凌ぐ、勝るという意味の英語だが、無論ドナルド・トランプにかけた駄洒落だ。ただ、trumpsの三単現の「s」が所有格の「s」のように遠くから見え、「トランプ(による)ヘイトを愛せよ」のようで紛らわしかった。

1992年のビル・クリントン選挙陣営のスローガン、「経済こそが大切なのだよ、愚か者!(It’s the Economy, Stupid!)」のような分かりやすさに欠けていた上に、トランプ支持者のすべてをヘイト好きの人種差別主義者と定義付ける作戦は、「分断」拡張の副作用が大きかった。経済的な理由でトランプを支持したにすぎない労働者も多々いたからだ。

奴隷制の負の歴史を抱えるアメリカでは、「レイシスト」と名指しされるほど侮辱的で琴線に触れる批判はない。Hateの対語として使われているLoveが具体的に何を指すのか不明なまま、ラディカルなデモの拡大の印象だけを穏健な農村の市民に与えてしまっている。

マドンナ「ホワイトハウス爆破」演説への誤解

デモのハイライトの1つは、歌手のマドンナの参加だった。マドンナはワシントンでこう叫んだ。

「愛の革命にようこそ」「善は今回の選挙では勝てませんでした。しかし、必ず善意は最後に勝ちます」

演説するマドンナ。2017年1月21日〔PHOTO〕gettyimages

しかし、マドンナが集会の演説で「ホワイトハウスを爆破したい」と言ったとの保守派からの反論がネット上で拡散し、「女性の行進」は危険なデモとの烙印を押されてしまった。

共和党内部のトランプへの不満をめぐり以前の拙稿で指摘したようにhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/50637)、共和党内にはトランプを嫌悪する穏健な保守系女性が少なくない。しかし、「反トランプ」派は、今回のデモの主導権を「女性運動」に託したことで、味方にできるはずの敵陣営内の女性まで遠ざけてしまった。

このワンフレーズ抜き出しによる「マドンナがホワイトハウス爆破宣言」の誤解は、外国にもそのまま流れてきている。しかし、こういうときこそ文脈が大切だ。マドンナがなんと言ったのか前後を含めて訳出しておきたい。

「たしかに、怒りを感じました。たしかに、憤慨もしました。たしかに、ホワイトハウスを爆破したいと、心底思いました。でも、そんなことをしても何も変わらないことは分かっています。絶望しているわけにはいかないのです。

詩人のW・H・オーデンがかつて第二次世界大戦直前に書き記したように、お互いに愛し合うか、死ぬかしかないのです。私は愛を選びます。皆さんも私と同じですか? 復唱してください。私たちは愛を選ぶ!」
 
一部表現は過激だし、演説中ほかの部分で口汚い「Fワード」を使用して品位に欠けていた。しかし、「爆破する」などとマドンナは言っていない。爆破したいほどの怒りに満ちた気持ちだが、その代わりに愛を選ぼうと呼びかけていただけだ。

「反トランプ」でも「トランプ擁護」でも、トランプ政権下では部分抜き取りの揚げ足取りが、ネット経由で今後も繰り広げられていくだろう。トランプ周りの情報は、強い磁場で歪められがちである。いままで以上に現地情報へのメディアリテラシーをしっかりはたらかせていくことが必須になろう。

「反トランプ」デモが予兆する民主党のジレンマと「究極の選択」についてはさらに別稿で述べる。

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