爆発する「反トランプ感情」〜米国社会はドロ沼の「文化戦争」へ!?

全米各都市で巨大なデモが…
渡辺 将人 プロフィール

史上最大規模の「反トランプ」デモ

ワシントンでは「女性の行進」という反トランプのデモに50万人以上が集まり、同時にニューヨーク、シカゴ、ボストン、ロサンゼルス、シアトルなど全米で合わせて100万人規模のデモが開かれた。

「女性の行進」2017年1月21日、ニューヨーク〔PHOTO〕gettyimages

ワシントンの現地情報では、地下鉄のホームから溢れるほどの参加者で、2009年のオバマ就任式の人の波を彷彿とさせるのは、むしろトランプ就任式の翌日のデモのほうだった。

多都市「同時発生」という趣向は、ティーパーティ運動や「ウォール街占拠」運動にも似てソーシャルメディア時代ならではで、規模的にも史上最大と見積もられている。

トランプ大統領が、女性、中南米系、ムスリムなどマイノリティを蔑視し、白人至上主義団体クー・クラックス・クランのトップとの交流歴からも、アメリカの象徴の器ではないと彼らは訴える。

民主党員は「アメリカに失望」「アメリカを諦めたい気持ち」に陥っていると口々に言う。旧知の民主党連邦議員はこうため息をつく。

「トランプが当選する可能性は皆無ではないと、最後までナーバスな気持ちはあったものの、さすがにアメリカ人も馬鹿な真似はしないと思った。差別主義者を当選させないだろうと。

悲しいし、驚いているのは、トランプ政権成立そのものよりも、トランプのような人物にアメリカ人があんなに沢山票を入れたこと。自分の奉仕している国は、実はそんな国だったのだというショック」

アメリカが公民権運動を経て、かつての人種差別を反省し、多様性豊かな「進歩的」社会を実現してきたと信じてきたリベラル派は、アメリカ像への自信を喪失し、アイデンティティ・クライシスに陥っている。

「いったい何が起きた?」「これは夢?」「カナダに移住する」という声は止まない。日本にいる民主党支持者のアメリカ人からは「トランプ政権のあいだは帰国したくない」「子どもは日本で育てる」という声もいまだに聞こえる。

だが、選挙によって権力の交代が行われたという点では、アメリカ的な民主制度が正常に機能した帰結ともいえる。

 

共和党の予備選挙には特別代議員制度がなく、政党エスタブリッシュメントの介入が働きにくい点で、民主党よりも草の根の民意といえるし、無党派層の参加率が高かった今回の共和党予備選は従来よりも民意を幅広くすくいとったとの見方もできなくはない。

また、支持政党の大統領でなくても、大統領とその一家には特別の敬意を払うのがアメリカ社会の伝統である。イギリスでいう国王と首相を合わせたような「プレジデンシー」への敬意から、大統領は「ひとつの時代」の同時代共有を象徴する。

「青春期はレーガン時代」とか、「クリントン時代は新婚だった」と回顧する人が多い。民主党支持者でも、ニクソン、レーガン、そしてブッシュ家にすら一定の敬意を払ってきた。

そうした慣習に抗うように、「トランプ時代」だけは認めたくないという感情が爆発しているのだ。

この拒絶反応は、2001年のブッシュ息子と比べても少し異質のものだ。トランプが「差別主義者」、あるいは本人は根っこの部分では「差別主義者」ではないとしても、人気のためなら、いとも簡単にそう振る舞えてしまう「人格」への嫌悪感が根深いからだ。

他方、この「嫌悪感」を2016年の11月、有権者の過半数が共有しなかったのも事実なのだ。重要なのは目の前の「生活」だったからだ。「アメリカ第一」である。