「就任式の観客が少なかった」は本当?
トランプ大統領の就任式の観客が、2009年のオバマ大統領就任式と比べて圧倒的に少ないとして、議会前のモールの観客の範囲を比較する写真が出回り、トランプ大統領自らが来訪者が少ないというのは嘘だと反論に躍起になっている。
2009年オバマ就任式の動員数は諸説があるが180万から200万とされている。トランプ就任式は警備当局によれば90万人ほどの観客が見込まれていた。
しかし、今回のトランプ就任式の人数をオバマの就任式とだけ比較するのはミスリーディングだ。
近年の人数は概数で以下と目されている(Newsweek, NBC News)。1993年クリントン1期目(約80万人)、1997年クリントン2期目(約25万人)、2001年ブッシュ息子1期目(30万人)、2005年ブッシュ息子2期目(40万人)。警備当局の概算が正しければ、トランプはブッシュ息子やクリ
旧来の2大政党を突き抜けている「第3党」的な人物としてこれは快挙と言ってよいし、だからこそ集められたとも言える。

一般的に1期目の就任式が盛り上がり、再選就任式は儀式的で人は少ない。筆者は過去に2回、民主、共和の双方で、議員招待などで大統領就任式に参列したが、2001年ブッシュ息子と2009年オバマといずれも1期目の就任式だった。
ちなみにオバマは2期目の2013年就任式でも100万人を集めており、オバマだけが突出していることが分かる。
とりわけ1期目の2009年オバマ就任は特別だった。共和党保守派のあいだですらブッシュ政権への支持が地に落ちていた上に、「非白人初」の歴史的大統領でもあり、党派横断でアメリカが誇りを共有した就任式だった(参考:http://www.tkfd.or.jp/research/america/s00198?id=220)。
オバマとトランプを比較するのはフェアではない。比較するなら、2001年のブッシュ息子の就任式が適当だろう。
今回のトランプ就任が「かつてない分断の中での就任」というのも必ずしも正確ではない。最近では2001年のブッシュ息子の就任があったからだ。
2001年当時、ゴア候補との再集計騒ぎを経て、民主党支持者の多くは、本来はゴアがフロリダ州を含む選挙人争いにおける勝者で、
トランプ大統領は一般投票の総数でヒラリー・クリントンに敗北したが、複数の激戦州の選挙人を獲得している。たった1つの州で勝敗を決した2000年とは事情が違う。とんでもない不正でも明らかにならない限り、選挙制度上はトランプが勝者であることに疑いはない。
反トランプ派の「選挙人数だけで勝利した大統領に正統性無し」の攻撃がいまひとつ弱いのは、ヒラリーが逆の立場で勝利していたら、民主党が選挙人制度批判を蒸し返さないことは自明だからだ。
他方、2000年の大統領選挙は本当にクエスチョンだった。勝敗がしばらく宙に浮き、裁判所の判断にも党派的な意向が関与する中、半ばうやむやのままゴアが引いてのバタバタ就任で、2001年就任式の「白け」は今回の比ではなかった。
1つ前の大統領の息子という「世襲」で、トランプのような「チェンジ感」もなかった。あのときに比べると、型破りな非政治家大統領の誕生という新鮮さはある。就任式の人数はこのあたりも関係していよう(ちなみに、
厳戒態勢のなかでのパレード
就任式のパレードでは一部分だけ夫妻で車から降りて歩く。ここがシークレットサービスには緊張の瞬間である。就任式のしばらく前から、ワシントンではコース付近のアパートはすべて犬を連れた警察官が来て隅々まで調べられる。
2001年ブッシュ息子就任式も今回のように雨の日だった。警官にひきずり回される活動家や、リムジンに卵を投げつける暴徒も出現し、ブッシュ夫妻は安全確保のため、ほんの少しだけパレードしてすぐにリムジンに戻った。
温和な祝賀ムードの2009年オバマ就任式でも、「反黒人」のヘイトによる暗殺懸念はあり、サーシャさんとマリアさんの娘2人はリムジンの中に念のため待機した。
今回、バロン君はトランプ夫妻とともにリムジンから降りた。

警備面が増強されていることもある。2009年のオバマ夫妻のパレードでは、テレビのフレームになるべく映り込まないように、警備人数も抑え気味で一定の距離感を保っていた。しかし、今回はまるでシークレットサービスの一団のパレードを中継しているかのように警備の濃度が増した。
暴徒化した抗議者が車に火をつけるなどの混乱あったが、無事就任式は終わった。しかし、「反トランプ」デモの真骨頂は、翌日に控えていた。