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今年、イスラム教徒と西欧社会との関係は「最悪」になる

混迷のイスラム世界に出口はあるか
内藤 正典 プロフィール

アメリカに残された権益は?

クルド問題については、もう一つ、北イラクのクルド地域政府が主要なアクターであることを忘れてはいけない。

トルコは、マスード・バルザーニが率いるクルド地域政府との関係を緊密にして、PKK、PYD/YPGの排除をクルド地域政府に働きかけている。地域政府は、同じクルド民族のPKK,PYD/YPGを切るだろうか? これは微妙な問題である。従来のやり方をみていると、表向き、国際的にテロ組織とされるPKKを支援するとは言わないのだが、実際に関係を断絶したことはない。

クルド地域政府の領域は海に面していないため、域内の石油資源を輸出する際にはトルコを経由せざるをえない。バグダードの中央政府はこれを認めていないが、シーア派が実権をにぎる中央政府に資源を左右されれば、クルド地域政府の「独立」は達成できない。北イラクのクルド地域は、すでに実質的に独立を達成しているのだが、これは2003年のイラク戦争で一貫してアメリカを支持したことの見返りである。

つまり、この地域にはアメリカの権益が維持されている。バグダードのイラク政府は人口比からみて、どうしてもシーア派が力をもつからイランとの関係は良好である。トランプ政権はイランとの対決姿勢を強めることが予想されている。

 

北イラクのクルド地域に対するイスラエルの投資は大きいから、アメリカもここだけは手放さない。クルド地域では、現在のところ、スンナ派の過激なイスラム勢力が力をもっていないことも幸いして、アメリカにとっては重要なパートナーなのである。

シリアでは剣呑な関係となっているトルコとアメリカだが、イラクのクルド地域政府を安定させるためには、その石油資源をトルコ経由で安定的に地中海にもたらすしか方法はない。その石油がイスラエルにとって必要な戦略物資となることは言うまでもない。

従来、アメリカはペルシャ湾沿岸諸国と緊密な関係を維持してきた。サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦、クウェートなどの産油国である。この関係が今年1年で変化するかどうかは即断できないが、サウジアラビアのようにサラフィ主義のイスラムを奉じる国がアメリカにとって潜在的脅威であることはつとに指摘されてきた。アメリカを番犬としてつかってきたことへの反発は、ペルシャ湾岸諸国の市民の間にじわじわと広がっていくだろう。

ドイツ・ベルリンテロ追悼現場 photo by gettyimages

アメリカとロシアは、ともにイスラム主義の政治勢力が台頭することを恐れている。仮に「イスラム国」を軍事的に屈服させたとしても、その戦闘員によるテロは拡散する。すでに、トルコが「イスラム国」から敵と名指しされ攻撃対象となっている他、EU諸国はフランス、ベルギー、ドイツと相次いで「イスラム国」戦闘員が関与したと思われるテロに見舞われてきた。

アメリカが率いる有志連合軍は、シリアとイラク領内の「イスラム国」拠点を叩き続けているが、相当に時間がかかっている。

その間に、テロリストは確実に世界に飛散していることに注目する必要がある。