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今年、イスラム教徒と西欧社会との関係は「最悪」になる

混迷のイスラム世界に出口はあるか
内藤 正典 プロフィール

難民発生の最大の原因はシリア戦争である。2016年の段階で、これはもはや「内戦」と呼ぶべきものではなかった。

アサド政権側にロシアとイランが付き、反政府勢力の側にトルコ、カタール、サウジアラビアが付き、「イスラム国」と戦うクルド勢力をアメリカやEU諸国が支援するというのでは内戦ではない。

この戦争に実戦面で参加した外国は、ロシア、イラン、トルコである。昨年末、ロシアとトルコとのあいだで一応の停戦合意に達し、17年1月にはカザフスタンのアスタナで和平会議が行われる予定である。

停戦合意に持ち込んだのは、当事者のアサド政権と反政府勢力ではなく、そのバックについていたロシアとトルコであったことに注目すべきである。さらに、イラクからシリアにかけて猛威を振るった「イスラム国」と戦ってきた有志連合軍を率いていたはずのアメリカが、停戦合意には参加していないことにも注目しなければいけない。

シリア戦争を、米ロの代理戦争とみる向きは今でもあるが、これは間違っている。ロシアはアサド政権を支援して、アサド政権に抵抗する反政府勢力を叩いてきた。この反政府勢力というのは、宗教色が薄い自由シリア軍だけでなく、無数のジハード組織から成り立っている。

中にはヌスラ戦線(現在はシャーム征服戦線と名称変更。アル・カイダ系とされる)のように、アメリカをはじめ多くの国からテロ組織指定されている組織もある。アル・カイダ系も加わる反政府勢力をあからさまに支援することはできない。このことをみても、アメリカがロシアに対抗する主役としてこの戦争にコミットできなかったことがわかる。

 

さらに、アメリカにとって最も重要な同盟国であるイスラエルが、一貫してアサド政権の存続を望んできたことも忘れてはならない。イスラエルにとっては、スンナ派ジハーディストがシリアで実権を握るなど悪夢以外の何物でもない。アスタナでの和平会議にはアメリカも招待されることをトルコ政府は示唆している。

しかし、トルコに「招待してやる」と言われるようでは、シリア問題解決に関するアメリカのプレゼンスは低い。トランプ政権は、この問題に関心を示さないと思う。新政権は親イスラエル姿勢を明確にするだろうから、イスラエルにとって厄介なジハード組織が含まれる反政府側を支援する理由はない。

イスラム国の戦闘員 photo by gettyimages

厄介なのは、「イスラム国」掃討作戦の方である。

オバマ政権というのは、中東にとっては、前ブッシュ政権ほどあからさまな軍事介入をしなかったものの、結局は、中途半端な軍事介入を繰り返した。「イスラム国」が最悪のテロ組織でアメリカにとって重大な脅威だから潰すということまでは決めたものの、イラク戦争の二の舞を避けるために、地上部隊は送らず、現地のクルド勢力PYD/YPGに戦わせる戦略をとった。クルド勢力は、親米だからこれに応じたのではない。独立国家樹立のために働いたのである。

PYDというのは統一民主党という政治組織、YPGはその軍事部門だが、いずれも極左の共産主義組織である。PYDはトルコ国内で武装闘争による分離独立を主張してきたPKK(クルディスタン労働者党)の兄弟組織であり、PKKはトルコだけでなく、アメリカでもテロ組織に指定されている。アメリカは「テロとの戦い」にダブルスタンダードを使った――トルコはこのことを激しく非難し続けた。

昨年の8月下旬から、最終的に、対「イスラム国」軍事作戦のためにシリア国内に展開しているトルコ軍は、「イスラム国」とPYD/YPGの双方を攻撃している。しかしそのトルコが、ロシアと急接近を図り、シリア第二の都市アレッポ東部で激しい戦闘に巻き込まれた市民を避難させ、さらにはシリア戦争の和平会合開催までロシアと合意したのである。もはやアメリカの出る幕はない。