巨大なビルで大量生産…日本の名酒『獺祭』がちょっと変だぞ!?

日本酒好きのあいだでは賛否両論
週刊現代 プロフィール

「杜氏が古い酒蔵で造ってこそ旨い酒ができると信じている人は多いですからね。私自身も、何百年も続く酒蔵で法被を着た杜氏が、櫂入れしている光景を思い浮かべて酒を飲みたい。いくら品質がいいといっても、近代的な工場でサラリーマンが造った酒に高いカネを払いたくない。

実際、旧来の獺祭ファンからは、大量生産化で味が変わったんじゃないかという声もある」(日本酒ライター)

一方で、日本酒に詳しいコラムニスト勝谷誠彦氏は、味は変わっていないと語る。

「桜井さんは稀少価値で値段が上下するような状況は間違っていると考えていて、絶対に品質を落とさずに、誰でも飲めるように生産量を増やそうと努力している。大量に出回ることで問題が生じているとすれば、きちんと保存管理をしていない酒屋や居酒屋が出てくる可能性があるということでしょう。

大量生産するに当たって一番難しいのはコメの調達です。いまは直接契約した農家に山田錦をどんどん増産させています。しかも富士通と組んでITでサポートしている。

だから、獺祭はいまや和民のような大衆居酒屋でも飲めるのです。『獺祭も和民が置くようになったらおしまいだね』なんて言う人もいますが、逆に和民に卸しても味がまったく落ちていないことは驚くべきことです」

Photo by iStock

旭酒造は、「日本酒は通常冬の寒い時期に仕込むもの」という常識も覆そうとしている。蔵の温度管理を徹底し、通年で醸造を行っているのだ。だが、この点についても旧来の日本酒ファンからは不満の声が上がる。

「食材や料理に旬があるように、日本の食文化に四季はつきもの。〝寒仕込み〟と聞くだけで、酒好きにはたまらない。冬の寒い朝、蔵人たちが白い息を吐きながら、仕込みを行う。私たちはそういう光景も含めて、酒を味わっているんです。

いつでも醸造できるなら、何月が新酒の季節かもわからなくなってしまう。常時美味しい酒が飲めるということは、ある面では素晴らしいことかもしれませんが、逆に季節感という大切なものを失っているのです」(都内の老舗酒屋店主)

このように保守的な酒好きからは、批判的な声が上がりがちな獺祭の酒造り。だが意外なことに、旭酒造の手法は伝統的な方法を守り続けている酒蔵からも一定の評価を受けている。岩手県の「南部美人」の五代目蔵元、久慈浩介氏が語る。

「獺祭は機械で造っているとよく誤解されるようですが、分析器がずらっと並んだ最新鋭の蔵なのに、麴は手作りし、米は小分けにして洗う。丁寧に米を洗うのは、吸水率を一定にしなければデータをきちんと取れないからです。

うちでもそうですが、そうしないと後の工程のデータが無用の長物になり、経験と勘に頼らざるを得ない。だから要所要所は手作業を徹底しているのです」

虫混入は「奢り」の現れ?

このように徹底的に品質管理をしていても事故は起きる。昨年末、獺祭のボトルの中に虫が混入していることが発覚し、回収騒ぎになった。前出の日本酒ライターが語る。

「醸造工程ではなく、瓶詰の段階で混入したようですが、やはり急な生産拡大で目の行き届かない部分が出たのでしょう。業界内では『メディアでもてはやされた奢りが出た』といった声も聞かれる。桜井氏は地方経済振興の雄としても、経済誌などで引っ張りだこですからね」

事故後、旭酒造は、瓶詰の際に自動機械を使うと30~60秒の隙間時間ができるため、手動により素早く打栓する方式に変更したと発表している。

獺祭の酒造りに対する批判の声に桜井会長はどう答えるのだろうか? 本人に話を聞いた。

「これまで日本酒業界は、一部でコメが余っているのに原料米不足になっていたり、杜氏がどんどんいなくなったりという状況に対して何の改善策も描いてこなかった。

そこに私どもは、真正面から突っ込んでいきました。美味しい酒を目指すためにはこの方法しかないということで、杜氏の勘に頼らない酒造りの形が出てきたわけです。ただ、真正面から行き過ぎるところがあるので、抵抗や反発の声が出てくるのは仕方がないことかと思っています」

最新設備で大量生産して海外にも進出――ビジネスとしては間違いなく「成功譚」だが、「前のほうがよかった」と思っている日本酒ファンの気持ちも汲んでほしいところだ。

「週刊現代」2016年1月28日号より