ニュースで流れない北朝鮮の「真実」〜美女軍団がジャージ姿で恋バナ

渡航10回のジャーナリストが見た!
八鳥 京蔵

また、小学生の理科の授業を撮影したときにも、こんなことがあった。先生に指名された生徒が次々に立ち上がり、朝鮮中央放送でおなじみのアナウンサーのような抑揚をつけた声で正解を連発。圧倒されながら教室を出てドアを閉めた瞬間、「あ~緊張した!」という子どもらしい笑い声が教室にどっと響いたのだ。

平壌屈指の名門である高麗ホテルのショップでは、女性の店員が「ミュウミュウ~」と甘い声でショーケースの下に呼びかけているので何かと思えば、店の中で子猫を飼っていたり。秋に北京から平壌まで国際列車に乗ったときには、キムチを漬けるための白菜を山のように乗せたトラックが地方の農村の道を何台も行き来するのを見たり。人間らしい暮らしが北朝鮮にも確かに存在するという、あたりまえのことを実感したのだった。

慢性的な電力不足で止まったトローリーバスを押す乗客たち © VERTOV SIA,VERTOV REAL CINEMA OOO,HYPERMARKET FILM s.r.o.ČESKÁ TELEVIZE,SAXONIA ENTERTAINMENT GMBH,MITTELDEUTSCHER RUNDFUNK 2015

案内人という名の監視人

しかし、これらのエピソードの数々は、ドキュメンタリーとして世に出ることはなかった。なぜならその瞬間はカメラを回していなかったからだ。僕たちの取材にも、もれなく同行していた案内人という名の監視人。撮影できる場所は、基本的に案内人が許可したところに限られている。その無言の圧力に、想定外の出来事に対して思いのままカメラを向けることをためらってしまったからだ。

撮影を自制するのは、ドキュメンタリーの作り手として失格かもしれない。しかし、北朝鮮取材には「負のイメージを世に紹介すると、2度と渡航許可が下りなくなる」という、不文律がある。真実を伝えようとすればするほど、真相に迫ることが難しくなるという矛盾。さらに怖いのは、何を撮ったらNGなのかという基準が、はっきりとわからないということだ。

事実、北朝鮮当局の「演出」を隠し撮りしたマンスキー監督は、長期ロケを2回終え、最後の取材を目前に控えたところで、北朝鮮から予期せぬ通告を受けたという。

「『我が国は閉ざされた国である。今は外国人を受け入れられない』と。なぜ、突然北の態度が豹変したのか、いまでも不明です」

毎日撮影後にホテルで北朝鮮当局がデータをチェックするため、ロケ車の中で検閲に引っかかりそうな部分をこっそり削除してコピーを作り、オリジナルデータは肌身離さず持っていたという監督。

「当局に渡した映像が、撮影した時間に比べて短すぎると気づかれたのだろうか」

と自問するが、真相は謎のままだ。

太陽の下で−真実の北朝鮮−
配給:ハーク
1月21日(土)、シネマート新宿他全国ロードショー