ニュースで流れない北朝鮮の「真実」〜美女軍団がジャージ姿で恋バナ

渡航10回のジャーナリストが見た!
八鳥 京蔵

来日したヴィタリー・マンスキー監督にたずねると、こう明かした。

「北朝鮮サイドがシナリオを提案してきたのです。『我々が撮影を保証するので、ぜひ北朝鮮で映画を撮影してください』と」

マンスキー監督は、モスクワドキュメンタリー映画祭の会長を務め、プーチン大統領を撮影したこともある、ロシア映画界の重鎮。ある映画祭で北朝鮮の映画関係者と出会い、「北朝鮮でドキュメンタリーを撮りたい」と言ったところ、積極的なサポートを北朝鮮側が申し出たのだという。

ヴィタリー・マンスキー監督 © VERTOV SIA,VERTOV REAL CINEMA OOO,HYPERMARKET FILM s.r.o.ČESKÁ TELEVIZE,SAXONIA ENTERTAINMENT GMBH,MITTELDEUTSCHER RUNDFUNK 2015

「台本はあくまで場面設定程度だと思っていました。でも、実際はジンミを主人公にして撮ると決めるまえから、会話の台詞はできあがっていたのです。さらに、ジンミの父親の職業はジャーナリストだと聞いていたのが、撮影が始まるときにはなぜか繊維工場の技師に変わっていました。

ジンミの家族と直接話すことは不可能で、現場は北朝鮮の映画関係者が仕切り、我々の役目はただカメラのスイッチを押すだけ。撮影初日、『このままではおしまいだ』と追い詰められ、北朝鮮の演出そのものを隠し撮りしようと決めました」

完ぺきな演出と意外な素顔のギャップ

監督の裏話を聞きながら、僕は自らのかの国での撮影経験を思い起こした。ドキュメンタリーの撮影で10回近く訪れた北朝鮮。実は、ジンミが通う金星学院も取材したことがある。そこで目にしたのは、完ぺきな演出と意外な素顔のギャップだった。

金星学院は、金正恩朝鮮労働党委員長の妻、李雪主も通った芸術系の名門校。学内にはレッスン用の小さな部屋がいくつもあり、先生が案内してくれた。レッスン室のドアを開けるたびに、バイオリンを弾く少年、声楽の稽古を受ける少女などが、次々と現れる。まるで、蓋を開けると音楽が鳴り始めるオルゴールのように。

授業風景の撮影で教室に行くと、全国から選抜された声楽専攻の美女軍団10人ほどが黒のスーツ姿で一列にそろって登場し、ピアノに乗せて故金正日総書記をたたえる歌を振り付けありのハモリで合唱。その後、美女軍団は手早くチマチョゴリに着替えて学内の大講堂に移動。器楽科などの生徒も一堂に会して取材クルーのためだけの特別コンサートを開き、教室で歌った曲のオーケストラバージョンを披露した。

『太陽の下で』の撮影とは異なり、紙に書いた台本はなかったが、ここまではおそらく北朝鮮当局の「シナリオ通りの演出」だろう。教室の壁に軽く寄りかかっただけで黒いコートに塗装の白い粉がべっとりとついてしまい、日本の撮影チーム来訪に合わせて急遽壁を上塗りしたのかも?と思わせるような出来事もあった。

だが、講堂でのコンサートの後、美女軍団は大役を終えて、ほっと一安心したのだろうか。チマチョゴリを手にステージから戻ってきた一人に声をかけると、「おなかが空いちゃって、声がでなかった」と肩をすくめて恥ずかしそうな笑顔に。

撮影の合間には、ジャージに着替えて廊下でおしゃべりする姿も。グレーの素朴なジャージに親近感を覚え、「彼氏はいるの?」とたずねると、頬を赤らめながら、みんなで声をそろえて「いませ~ん!」。「将来はサッカー選手と結婚したい」「私は軍人さんが好み」など、理想の男性像まで語り始めた。すっかり打ち解けた美女軍団は、取材チームとの記念写真ではピースサインでにっこり。最後はウインクをしながらお見送りまでしてくれた。