【プロ野球感動読み物】元巨人・東野峻の静かなる「退場」

「5年前の開幕投手」はバッピになって
週刊現代 プロフィール

今度こそ、もうムリだ

息をつく暇もない生活の中、東野は'16年の春のキャンプを境に、深い悩みに直面する。

「開幕を前にした春のキャンプは、ピリピリ感が違う。メディアも解説者もたくさん詰めかけている。もちろん、打撃投手のことなんて誰も見てはいない。それでも『うわぁ』って気圧されるところがあって、緊張のあまり上手く投げられなくなってしまった。

一度、筒香君やロペスなど、主力に投げるチャンスをもらったのですが、全然、ストライクが入らない。自分では真ん中をめがけて投げているはずなのに、キャッチャーの隣においてあるボールのカゴにぶつけてしまう。『ヤバい、ヤバい、みんなに見られている恥ずかしい』と焦ると、今度はスッポ抜ける。その繰り返しで……。

結局、僕が主力の相手をさせてもらえたのはその時限り。みんな大人だから、面と向かって『下手クソ』とは言わない。でも、僕が投げさせてもらえる相手は、若手の控えの選手。不甲斐ない自分を責め続けていました」

悩みを抱えつつも、チームのため黙々と投げ続けた東野だが、ついに自らの限界を悟る時がくる。それが冒頭の、肩を痛めたシーンだった。

「6月に怪我をしてからも痛みをこらえて投げ続けた。『投げ方がおかしいけど、大丈夫か』と皆から心配されるようになりました。『大丈夫です』と答えるものの、ビデオで自分のフォームを見たら、もうグチャグチャで見るに堪えない。『ああ、今度こそ、来年は投げられないな』と、はっきりわかった。

打撃投手として契約してもらっている以上、選手に気持ちよく打ってもらえなければ、続ける資格はない。もう、潮時でした」

ユニフォームを脱いだ東野は、来季からスコアラーに転身する。

「結局、巨人時代を超える成績を残すことはできなかった。それでも、『この体でやれることはすべてやり尽くした』という自負はある。いまは、スッキリした気持ちです」

東野がプロ生活で肩に打った痛み止め注射は200本以上。痛みと闘い、2度も居場所を失いながらもなお、投げることにこだわった男が、いま静かにマウンドを降りる。

「週刊現代」2016年12月31日・1月7日合併号より