NHK「副会長人事」が会長人事よりも注目を集める、意外な理由

有力なのは、この3人
岩崎 大輔 プロフィール

安倍官邸も一枚岩ではナシ

「堂元副会長を推しているのは、安倍政権の頭脳ともいわれる今井尚哉首相秘書官、NHK政治部の岩田明子解説委員、山口太一政治部長のラインです。

岩田さんは、安倍晋三総理の実母・洋子さんや今井秘書官と昵懇。総理との距離も近く、数々のスクープをものにしてきました。

たとえば、昨年5月27日にオバマ大統領が広島を訪問しました。訪問決定は5月10日午後9時過ぎの安倍総理の『ぶら下がり会見』で明らかにされましたが、官邸から報道各社にこのことが知らされたのは、ぶら下がり会見の3分前。突然の情報に各社は慌てふためき、総理のぶら下がり会見にカメラが間に合わず、自分のスマホで総理の発言を録画・撮影する社もあったほどでした。

ところが、NHKはその日の『ニュースウォッチ9』で、岩田さんの解説付きで広島訪問決定の裏側に迫る特集を放映しました。NHKだけが詳報を伝えられたのは、岩田さんが事前に官邸からこのことを知らされていたからだと言われています。それぐらい、官邸との距離が近いということです。

その手法や距離感の是非を問う声はありますが、他局を寄せ付けないスクープを放っていることも事実。元政治部長であった堂元副会長は、岩田さんの手腕を高く評価している。岩田さんの人脈で、『堂元副会長は籾井会長の下で改革を担ってきた。次期副会長は、堂元氏の再任が妥当』と官邸内で喧伝し、内外で堂元副会長再任路線を固めているのです」(NHK政治部記者)

 

今井秘書官も堂元氏を推しているため、堂元再任路線が最有力だとみられている。ところが、官邸内もNHK人事に関しては一枚岩ではないようだ。

「杉田和博官房副長官、菅義偉官房長官の二人がNHKエンタープタイズ社長の板野さんを推している。彼もまた官邸とのパイプが太く、『クローズアップ現代』などの番組に菅官房長官が出演する際には、板野ルートが使われていると言われています」

2014年7月、『クローズアップ現代』に菅官房長官が出演し、当時関心を集めていた安保関連法案について説明した際、国谷裕子氏が菅氏に食い下がり質問を続けたため、菅氏が明らかに不機嫌になる一幕があった。その後国谷氏は同番組を降板することになるが、局内では「官邸に気を使った板野さんが、国谷さんの降板を決めた」とささやかれているという。

その板野氏は、籾井会長就任当初は「籾井氏の側近」と目されていた。しかし、会長の失言が続き、あるときを境に籾井氏を見放したようだ。2015年12月、NHK関連団体9社による東京渋谷区の土地取得を巡る計画が持ち上がったが、板野氏は籾井会長の意向に逆らい、この計画に反対。これが籾井氏の怒りを買い、昨年4月、専務理事からNHKエンタープタイズ社長に「払下げ」になった、とまで言われている。

“大穴”と言われる最後の副会長候補は元キャスターの今井環氏だ。

「今井氏の後ろ盾は読売新聞主筆の渡邊恒雄氏です。今井氏の父・瑠璃男氏は愛媛新聞会長で、渡邊氏と付き合いが深かった。その縁あって息子の環さんの面倒も見ており、渡邊氏がマスコミ幹部を集めて大物政治家を講師として呼ぶ勉強会『山里会』のメンバーでもあります。メディアの世界にも官邸にも影響力のある渡邊氏のイチオシ、ということで、候補の一人と見られています」(前出の記者)

前述の通り、堂元・板野の両氏は安倍官邸との距離の近さを誇っており、「今井派」「杉田・菅派」という違いこそあれ、どちらが副会長になってもNHKと官邸の“蜜月”が続くことに変わりはなさそうだ。それがゆえに、局内からは「籾井会長下で『NHKが安倍カラーに染まった』と揶揄されることもあったが、今後も官邸寄りの報道を求められたり、番組制作に不自由が生じないか、懸念している」(現役ディレクター)との声も聞こえてくるのだ。

副会長人事の現状について経営委員OBはこう語る。

「昨年末までは『堂元氏の再任で決まり』の雰囲気でした。しかし、年明けに『週刊文春』がNHK職員の受信料横領を報じたり、福島放送局の記者のタクシー券の不正使用が発覚したりという不祥事が相次いで起こったため、堂元さんの再任に疑問符が付きだした」

副会長の人事は会長の推薦を受けて1月31日の経営委員会で承認される見込みだが、「12人いる経営委員会のメンバーの中で最も声が大きいのが、元JT会長で安倍総理の家庭教師だった本田勝彦氏。委員長の石原進氏よりも発言力があるという本田氏が堂元さんをあまり評価していないようで、一波乱ある気がする」(同)という見方も。

新会長となった上田氏は、先月の記者会見で「信頼される公共放送としての職務を全うする」と語っているが、どのような人事体制であれ、公正中立な報道を心がけることが「信頼への近道」であることを肝に銘じてほしいものだ。