潜入、張り込み、愛人調査…秘密組織「マルサ」の実態を徹底解明!

段ボール箱の10億円を発見するまで
上田二郎

マルサを喜ばせる「三種の神器」

もう少しだけ、マルサの裏話におつき合いいただきたい。

マルサには内偵中に「三種の神器」が揃うと、必ず内偵調査が成就する(強制調査に着手できる)という言い伝えがある。「神器」とは脱税の端緒のことで、その一つ一つが脱税をひも解くキーになるものだ。

神器の一つ目は手段で、架空取引をした銀行口座や税務調査、警察の薬物捜査などで脱税の事実が判明することだ。二つ目はタレコミ。国税局に寄せられる脱税情報やマルサに蓄積された雑誌の記事(繁盛店の紹介など)も含まれる。そして三つ目は、仮名預金や借名預金などのタマリだ。 

これら3つが揃えば内偵調査が必ず成就すると言い伝えられているが、とりわけ内偵中に特殊関係人が見つかると期待感が高まる。パチンコで言えば確変モードで、愛人を持つにはそれだけカネがかかるということである。

 

内偵調査は拾ってきた神器の一つを拠り所にして調査を展開する。タレコミがあれば脱税手段の裏付けを取ってタマリを見つけていくのだが、ターゲットへの個人的な恨み・妬みで国税を動かそうとする輩も少なくないために、注意する必要がある。

強力な国家権力を行使した結果、間違えました(脱税はしていませんでした)では済まない。誤って善良な納税者に強制調査を行わないよう、別の角度からの証拠を収集するために、内偵調査は途方もない時間がかかる。

今もどこかで、脱税者を追って、いつ終わるとも知れない張り込みをしているマルサの男がいるのだ――。

このたび私は、マルサと呼ばれる特殊部隊をもっと多くの人に知ってもらいたいという思いから、そして、善良な納税者やガラス張りで源泉徴収されているサラリーマンなどの正直者がバカを見ないような社会になってほしいという切なる願いから、『国税局査察部24時』(講談社現代新書)を刊行した。

巧妙な手口で逃げる脱税者と国税最高峰の調査技法で追う査察官、内偵調査の苦労と矜持、マルサの男と女を取り巻く環境、彼らを支える家族の思いなどを、小説仕立てで誰にでも読みやすく描き下ろした。

一読すれば、脱税というワルさがいかに巧妙に行われているのか、そして、マルサの男たちがそれを見破ろうといかに奮闘しているのかがリアルに浮かび上がってくるであろう。

上田 二郎
1964年生まれ。東京都出身の税理士(上田二郎は筆名)。83年、東京国税局採用。千葉県内および東京都内の税務署勤務を経て、88年に東京国税局査察部に配属。その後、2007年に千葉県内の税務署の統括国税調査官として配属されるまでの合計17年間(途中、2年間の税務署勤務をはさむ)を、マルサの内偵調査部門で勤務した。09年、東京国税局を退職したが、再び税理士として税務の世界につながっている。著書に『マルサの視界 国税局査察部の内偵調査』(法令出版)、『国税局直轄 トクチョウの事件簿』(ダイヤモンド社)、『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)がある。