潜入、張り込み、愛人調査…秘密組織「マルサ」の実態を徹底解明!

段ボール箱の10億円を発見するまで
上田二郎

上田 「たった今、令状が取れました。渋滞しているので、地下鉄で天神駅に向かいます。駅から出たら道に迷う時間などありません。実施の担当者を駅に待機させてください」
中田統括「わかった。水谷総括を行かせる。4番出口で待つよう指示するから合流しろ」
上田  「了解しました」

4番出口に着くと、水谷総括が笑顔で手を上げた。

水谷総括 「よう! ご苦労さん。良く間に合ったな。日没まで10分しかないから急ごう」

到着して貸倉庫の扉を開ける。

すると、絵画を保管できるよう空調を効かせた3畳ほどの部屋に、段ボール箱が10箱も無造作に積み上げられていた。

箱を開けてみると……。100万円ごとに輪ゴムで留めた現金がぎっしり詰まっているではないか。

 

一箱に1億円。総額10億円の現金だ。輪ゴムで留めた現金は、脱税した裏金である可能性が高く、マルサの男たちは「ゴム留めの現金」と呼んでいる。

大変だったのは、大量の現金の確認作業だった。防犯上の理由もあって、現金を福岡国税局に運び込んで数えることになり、持ち場を終えた査察官を順次集結させた。しかし、20人の査察官で朝まで数えても、数えきれないほどの現金だった。

結局、大量の現金を預金させて、銀行に正確に数えてもらい、通帳と印鑑を差し押さえた――。

「タマリ」は真実の脱税者を示す道標

脱税で溜め込んだ裏金、タマリは真実の脱税者を示す道標になる。

タマリが見つからなければ、真の帰属者(脱税の享受者)が別人である可能性を否定できないため、強制調査の許可は下りない。そのため、マルサの男は死に物狂いでタマリを探すのだが、その手法も張り込みや尾行が中心となる。

長期間張り込むうちに、貸金庫や隠し事務所、隠し別荘、愛人(特殊関係人と呼んでいる)などのタマリが見つかる。

タマリは圧倒的に現金が多い。金融商品は足がつきやすいため、発覚を恐れて現金のまま隠す。ゴールドバーのタマリも多かったが、2012年に導入された金地金の支払調書制度(註:譲渡対価が200万円を超えると税務署に把握される)によって、売れ筋が200g以下の地金に変わった。

高価な宝石や絵画の裏取引もある。絵画や宝石を裏金で買えば、購入者は裏金を資産に変えられる。そして、美術商や宝石商は購入者の売り上げを除外することが可能だから、需要と供給が合致している。

隠し場所も人によって様々だが、庭に埋めたり、ブロック塀に埋め込んだタマリは、そう簡単に発見できるものではない。

最も安全な隠し場所は貸金庫だろう。盗難や火災の心配がないばかりか、税務署に突然踏み込まれても、簡単にはバレない。その鍵さえ見つからなければ――。