潜入、張り込み、愛人調査…秘密組織「マルサ」の実態を徹底解明!

段ボール箱の10億円を発見するまで
上田二郎

「ステルス潜水艦」の張り込みと尾行

メディアの取材に一切応じない国税。その中でも唯一、強制調査の権限を持つマルサ(国税局査察部)は「国税の最後の砦」と呼ばれ、特に情報に対するガードが堅いことで有名だ。

マルサの内偵手法は、そこに在籍してみなければ、国税職員でも想像することができない。内偵活動の実態を知るのは、極めて限られた者たちだけ。脱税者に察知されることなく強制調査に入る姿から「ステルス潜水艦」と呼ぶ者もいる。

マルサは人知れず内偵調査を行い、人知れず強制調査に着手して検察に告発する。強制調査が表に出るのは、小さな新聞記事になった時だ。

内偵調査で6ヵ月から1年、強制調査に入ってさらに6ヵ月から2年もの歳月をかけるのだが、検察に告発するまで、その情報が外部に漏れることはない。

マルサの男たちは常に「黒子」。けっして外部に情報を漏らさないし、家族にも絶対に仕事の話をしない。

そんな彼らは、いかにしてターゲットに接触することなく、秘密裡に内偵調査を進めるのか? そもそも、大口・悪質の脱税をどのように見つけるのか? 

これらについては読者の関心が最も高いところだろう。

 

脱税の端緒は国税局に寄せられる電話や投書による脱税情報、税務署からの脱税通報、警察からの課税通報のほかに、査察官が繁華街へ出て行って見つけてくる脱税がある。査察官が自ら見つけてきた脱税は、「拾う」と呼ばれている。

脱税の端緒はテレビ、新聞、雑誌、インターネットで紹介された行列のできる店、豪邸紹介、繁華街の人気店はもちろん、デリヘル、裏カジノ、違法薬物の販売など、闇の商売もある。

とにかく儲かっていそうな店を見つけて内偵調査に入る。しかし、普通の税務調査のようにターゲットから話を聞くことや帳簿を見ることは一切しない。

そのため、ターゲットに気づかれずに脱税方法を見抜くには、張り込みや尾行といった地道な調査で外堀を埋めていくしかない(実際の張り込みや尾行については、次回、別の事案で詳述する)。

朝まで数えても、数えきれないほどの現金

さて、カードキーの話に戻ろう。

当日、福岡方面の責任者だった中田統括は、本部室(東京)からの連絡を受けて指示を飛ばした。

現在の国税犯則取締法では、日没から日の出までは強制調査に着手できない(註:2016年10月、財務省と国税庁は、日没後にも強制調査に着手できるよう法律を改正し、脱税者は枕を高くして眠らせない方針を打ち出した)。もし、日没までに令状執行が間に合わなければ、踏み込むのは翌日になってしまう。
 
福岡地裁で許可が下りたのは日没の30分前。地裁から現場までは地下鉄で1駅。道に迷っている暇はない。本部からはタクシーで現場に直行するよう指示されていたが、走ってタクシーを拾いに行った大通りは、迫る日没とともに交通量が増し、渋滞を予感した。

現場での状況判断が査察官の腕の見せ所だ。上田は急遽地下鉄に乗ることを選択し、最寄りの駅へ向かって走りながら、携帯電話で中田統括に連絡した。