トランプが心酔した「自己啓発の元祖」そのあまりに単純な思想

だからこの男は、大統領になったのか
森本 あんり プロフィール

土着化したキリスト教

しばしば誤解されるところだが、聖書には、死後や来世のことよりも、此岸的で実践的な教えが多く書かれている。

〔PHOTO〕gettyimages

アメリカに根を下ろしたキリスト教は、この現世的な部分を強調し、楽観的で自己慶賀的な宗教へと様変わりしていった。マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』をひもといたことのある人は、同書がイギリスよりアメリカのピューリタンを好んで引用していることに気づかれるだろう。

神学や宗教学では、これを「土着化」と呼ぶ。宗教は、例えば日本の仏教がそうであるように、ある土地や文化に根を下ろせば下ろすほど、その性格や焦点を変えてゆく。

それはちょうど、ウィルス感染のようなものである。ウィルスが感染して増殖すると、宿主である身体にさまざまな影響を及ぼすが、同時にそのウィルス自体も宿主に適応して変化し、「亜種」が生まれるのである。

日本ではキリスト教の「本場」であるかのように思われているアメリカだが、そのキリスト教は大きく様変わりした亜種の一つである。

その変容ぶりを示すのが、この世の成功に対する考え方である。アメリカでは、成功は神の祝福の徴(しるし)と考えられている。神が幸運を与えてくれなければ、どんなに努力しても、成功することはない。逆に、成功していれば、それは神が祝福してくれたことの証である。

日本では「成り上がり者」や「にわか成金」にはどこか冷たい眼差しが向けられるが、アメリカではそれこそが正しい成功である。世襲のカネやコネによらず、裸一貫で出発し、自分の能力と才覚だけで成功をつかむ。これが"self-made man"の理念である。

 

誰もが平等にゼロから出発するので、成功はいつも「アメリカン・ドリーム」になるのである。近年はこの夢にも暗い影が差しており、それが今回の選挙結果にも表れたわけだが、それでも成り上がりを是とする価値観そのものは残っている。

トランプ氏も、その価値観の中で評価されている。あれほどキリスト教の理念とかけ離れた言動を続ける人物を、何と白人福音派の8割が支持したという。なぜか。彼らはこう考えるのである。

「たしかに彼は人間的に見て困ったところもある。だが、神の目はどこか違うところを見ているに違いない。彼には、人の知らないよいところがあって、それを神が是認しているのだ。だから彼はあんなに成功しているのだ」

トランプ氏本人も、彼の支持者も、大観衆の声を通して聞いているのは、神の是認の声なのである。

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