トランプが心酔した「自己啓発の元祖」そのあまりに単純な思想

だからこの男は、大統領になったのか
森本 あんり プロフィール
ノーマン・ヴィンセント・ピール〔PHOTO〕wikipedia

青年トランプが心酔

このピール牧師に心酔したのが、ドナルド・トランプである。60年代の終わり頃からこの教会に出席するようになったトランプ青年は、まさに「積極的思考」の生ける伝道者となった。

ピールの方でも、青年実業家として少しずつ知られるようになったトランプのことを「自分の最高の弟子だ」と褒めていたという。1983年に「トランプタワー」が完成すると、ピールはトランプが「全米一の建設家」になるだろう、と言ってその開業を祝福した。

明らかに、トランプは師が教えたことすべてに忠実、というわけではなさそうである。ピールは他にも「謙遜であること」、「怒りに身を任せないこと」、「口を慎むこと」、「人を憎まないこと」などを教えたが、これらはトランプの耳には届かなかったらしい。

女性関係もそのひとつである。最初の妻イヴァナとは、この教会でピール自身の司式により結婚式を挙げたが、トランプはその同じ教会で2番目の妻となるマーラと深い仲となり、不倫騒動の挙げ句にイヴァナと離婚して1993年に再婚している。

ちなみに、このことが報道されると、同教会の礼拝には億万長者との新しい出会いを求めて若い女性の出席者が急増したという。

 

もともとトランプ家は、クイーンズの長老派教会に通っていた。ドイツ系移民であった父は、伝統的なプロテスタント倫理に従って5人の子どもを育てたが、その関心はもっぱら勤勉と努力、競争と勝利に向けられていた。

こんな逸話も残っている。ある日借金の取り立てに同行した彼は、呼び鈴を押した父に、ドアの脇に立つよう注意された。たちの悪い相手だと、いきなりドア越しに銃をぶっ放してくるので、正面に立つのは危険なのである。

子どもを連れ回すのに理想的な職場環境とは言えないが、ドナルドはこうした不動産業の修羅場を体験しつつ、仕事に対する父の真剣で勤勉な態度を学んでいった。

彼の回想によると、父は年に365日働いたという。仕事に対する義務感からではない。働くのが心底楽しかったからである。父が息子に教えた最大の教訓は、一生懸命に働けば必ず報われる、という信念であった。

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