ファミレス「24時間営業」撤退、はたして「生産性」は上がるのか?

長時間労働に関する壮大な勘違い
加谷 珪一 プロフィール

人手不足、しかも客は来ない

すかいらーくが2013年に深夜営業の短縮を決めたのは、2012年頃から深夜の時間帯の客数が大幅に減少したからである。外食産業は変動費と固定費のバランスで成り立っている。人件費や食材費は営業時間や注文の数量に応じて変動するが、店舗の原価償却費などは営業時間にかかわらず一定額を支出しなければならない。

支出が固定費だけなら、24時間営業を行って売上げを少しでも伸ばした方が、最終的な利益は大きくなる。だが変動費の負担が大きくなってくると、一定以上の売上高が見込めない場合には、営業しない方が得というケースも出てくる。

かつては深夜営業を行えばそれなりの来客が見込め、深夜の時間帯での勤務を望む労働者もいたので、このシステムはうまく回っていた。

だが、最近では深夜の客足が大幅に減少するとともに、労働者の確保も難しい状況となっている。それに連れて人件費は逆に上昇しているため、深夜営業が割に合わなくなっている。これが24時間営業廃止の最大理由である。

深夜の客数が減っているのは、消費者の購買力が大きく減少していることが主な原因であり、労働者の確保が難しいのは若年層の労働人口が減少しているからである。つまり、24時間営業の廃止は、ワークライフバランスを追求した結果というよりも、日本経済の構造的な問題に起因しているといってよい。

筆者はムダな長時間労働や過剰なサービスは必要ないとの立場だが、こうした構造的な問題を考えずに、社会全体で一斉に時間短縮を行うことについては慎重であるべきだと考えている。

構造的な問題を解決しないまま、むやみに深夜営業や休日営業をやめてしまうと、経済のパイそのものが縮小し、さらに日本経済が貧しくなるというスパイラルに陥る可能性もあるからだ。

深夜営業が割に合わない店舗も Photo by iStock

一方ヨーロッパでは…

深夜営業や休日営業の規制についてよく引き合いに出されるのがドイツやフランスである。ドイツには有名な「閉店法」と呼ばれる法律があり、小売店の深夜営業や休日営業は規制の対象となってきた。フランスにも同様の規制があり、小売店の種類によっては深夜や休日に営業することができない。

ドイツにおける閉店法の制定は1900年と非常に古く、背景にはキリスト教の安息日の概念がある。単純に労働時間だけに焦点が当てられた法律ではない。

またフランスは革命国家ということもあり、労働者の権利というニュアンスが非常に強いのが特徴である(フランスの規制についても、原型は第三共和政の時代に出来上がったといわれる。また自営業者は労働者ではないので規制の対象外となっている)。

 

両国とも近年、規制の見直しが進んでおり、ドイツでは2006年に閉店法の権限が連邦政府から州政府に委譲された。各州での議論の結果、多くの州で24時間営業や休日営業が認められるようになり、閉店法は実質的には機能しない状況となっている。

フランスもオランド政権が規制改革を進めた結果、条件によっては深夜営業や休日営業を行うことができるようになった。

だが重要なのはここからである。特にドイツがそうなのだが、大幅な規制緩和が行われた結果、多くの店が24時間営業に移行したのかというと必ずしもそうではないのだ。法律上では規制されていなくても、いまだに深夜や休日には休む店が多いといわれる。

フランスの場合には、イスラム教徒など移民が経営する小売店を中心に、以前から深夜・休日営業が行われており、実質的に不便はなかったという背景はあるが、やはり規制緩和によって多くの店が24時間営業に移行したわけではない。

つまりフランスもドイツも、利用者はそれほど強く深夜・休日営業を求めておらず、事業者側も、無理に営業時間を延長するつもりはないようだ。