「日本スゴイ」ブームの極み、大相撲人気に覚える“ある違和感”

こうして国威発揚の場と化した…
星野 智幸 プロフィール

日本人力士が背負わされる“プライド”

場所中の国技館などに足を運べば、このブームの原動力を肌で理解できる。

声援の多寡を決めるのは、「日本人力士」であるかどうかなのだ。この傾向は3年ぐらい前から目につくようになり、2016年にことさら強まった。その理由は、昨年初場所で、大関・琴奨菊が「日本人力士(日本出身力士)」として10年ぶりの優勝を果たしたからだ。

なぜ、あえて「日本人力士」とカギカッコをつけるかというと、モンゴル出身の旭天鵬は現役中に日本国籍を取得し、2012年に日本人力士として優勝しているからだ。彼を日本人にカウントしないのであれば、法治国家の日本において誰を「日本人」と呼ぶべきなのか、決められなくなる。その結果、「日本出身力士」という苦しまぎれの表現もひねり出されたりした。

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琴奨菊の優勝により、今度は「日本人横綱」の誕生が期待されるようになった。貴乃花が2003年に引退して以来、「日本人横綱」も不在なのだ。残念ながら琴奨菊は綱取りに失敗したが、今度は横綱級の力を持つ大関の稀勢の里に、とてつもない期待がかかるようになっていった。

 

こうして2016年は稀勢の里ブームに沸くこととなった。しかし、稀勢の里は横綱昇進の条件をそれまでより緩くしてもらうという特別なチャンスももらいながら、綱取りはおろか、優勝さえできていない。ライバルであるはずの「日本人」大関・豪栄道にも、初優勝で先を越されてしまった。

稀勢の里のメンタルの弱さのせいといってしまえば、そのとおりだ。だが、稀勢の里は、歴代の大関が背負ったこともないプライドを負わされることになったのも事実だ。「日本人」という、実体のはっきりしないプライドを。

稀勢の里が、白鵬をはじめとするモンゴル出身の横綱勢と当たると、館内では圧倒的に稀勢の里に応援が集まる。中には「日本人力士がんばれー!」という、差別とも言える声援まで多数飛ぶ。