『男はつらいよ』で寅さんを一番惑わせたのはこのマドンナ!

立川志らくと佐藤蛾次郎が語り尽くす
佐藤 蛾次郎, 立川 志らく

志らく さらに第10作では八千草薫が登場しますが、この作品はマドンナが寅さんに恋をするというそれまでとは違う恋のパターンでした。そして第11作で満を持して浅丘ルリ子演じる「リリー」の登場。このあたりで出演するマドンナの存在感は圧巻です。

佐藤 リリーさんは一番登場回数も多いし、ファンも多いんじゃないかな。

志らく リリーがそれまでのマドンナと違うのは、高嶺の花じゃないところ。キャバレーのドサ回りをしていて、根無し草のような生き方をしている寅さんと生活感のなさや人生観が似ていましたよね。

佐藤 啖呵を切るのもうまかった。そんなところも寅さんに似てたよね。だけど最初に出てきたときには毒蝮三太夫と結婚するんだよね。

志らく そうです。蝮さん演じる寿司職人と結婚してしまう。「なんで?」っていう感じでしたね。リリーは別格ですが、第17作の太地喜和子も人気があった。悩みを抱えながら気丈に振る舞う健気な芸者さんを演じました。私が個人的に好きなのは竹下景子と大原麗子ですね。

 

叶わなかった49作目

佐藤 竹下さんは別の役柄で3回マドンナとして出演している。山田監督が余程芝居を気に入ってたんでしょうね。第22作の大原さんはちょっと陰のある寂しげな役だった。当時、離婚寸前だった渡瀬恒彦さんと離れ離れで生活していたんですよね。

渡瀬さんを好きでたまらなかった大原麗子さんはものすごく辛かったみたい。その辛さが演技の時の表情にもにじみ出ていた。

志らく 割烹着姿でも、美しさは際立っていましたよね。シリーズ後半の作品だと44作目の吉田日出子。彼女もアクがあっていい味でした。

佐藤 吉田日出子が酔っぱらった演技がまた上手いんだ。料亭の女将の吉田と寅さんは昔なじみなんだけど、かつて寅さんは彼女と所帯を持つ寸前までいっていたという関係でね。その二人が夜一緒に飲んでいて、いい雰囲気になる。その様子を二階の部屋にいた甥っ子の満男が窺いに行こうとして、階段から転げ落ちてムードを壊しちゃうという、お決まりのオチ。

志らく 山田監督は、その翌日の場面で「二人の間に何かあったかも」と匂わせているんですよね。吉田日出子が「覚えとるだか? 夕べなにしたか」と訊ねると、寅さんは「いや俺は別に……。何も」としどろもどろになる。「私も。すっかり酔っぱらってしまってな~んにも覚えとらん」と言って寅さんの手の甲をぎゅっとつねる。

『男はつらいよ』では寅さんの性的な面を一切見せませんでしたけど、唯一このシーンだけは「何かあったのか?」と思わせる場面でした。

佐藤 そういうシーンで男と女の関係の機微を描くのも山田監督はうまいんだよね。

結局、寅さんが女性と結ばれることは一度もなかった。最後はリリーと一緒になってほしかったけどな。

志らく 最後の作品となった第48作にもリリーさんは登場しますが、山田監督がそこで二人を一緒にさせなかったのは、次の第49作を考えていたからです。

佐藤 『寅次郎 花へんろ』だよね。四国の四万十が舞台ということも決まっていた。
志らく もうこれでおしまい、という考えがあったら、寅さんとリリーを結婚させていたかも知れませんね。

週刊現代』2017年1月14・21日号より