トランプと共和党の微妙な距離感〜「暫定的支持」継続のカギは?

主流派からにじみ出るホンネ
渡辺 将人 プロフィール

来賓でアイオワ州農務長官など党の農業関係者も来ていたが、彼らと話せば、にじみ出る本音はTPP頓挫への悔しさだ。

オバマ政権とワシントンの安全保障専門家は、中国を排除して東南アジアを巻き込んだ「貿易圏」を作るという意味で、対中牽制の戦略的含意を重視していた(オバマ大統領はTPPに抵抗したサンダース上院議員にも電話で推進理由をそう説明していた)。

しかし、農村州の共和党関係者にとって、TPPは純粋な「経済貿易協定」であり、地政学的な戦略的含意への理解は浸透していない。トランプ次期大統領が「2国間交渉」に注力し、そこで利益が得られるのなら、現行のTPPにこだわる理由はない、と語る人が多い。

ただ、NAFTA再交渉となると、その評判は党内で芳しくない。ペンス副大統領に近いある共和党関係者(ワシントンを拠点にしている穏健派)は、以下のようにトランプを牽制していた。

「かつてレーガンは言った。自由貿易は大切だが、フェアでなければいけないと。TPPにフェアなルールを守れない国も関係するなら、その協定は望ましくない。しかし、NAFTAは良い協定だ。トランプは間違えている。貿易政策については、トランプ大統領もライアン下院議長やマコーネル上院院内総務とよく話して認識を改めるべきだ」

巧妙なトランプ人事

こうした空気にも配慮し、トランプは政権移行では共和党エスタブリッシュメントにも相当な気を遣った。

 

人事で重要なのは「最終的に誰になるか」だけでなく、「誰が検討されたか」の足跡だ。

トランプ政権移行チーム周辺からは、次々と「検討案」が漏れてきた。

国務長官候補だけで、1日のあいだに「ジュリアーニ、ニッキー・ヘイリー(後に国連大使候補に)、ロムニー」と3人も候補者名が報道された日もあった。「ロムニーならアメリカにとっては良い」と語る民主党幹部までいた。

選挙勝利後まもなく、トランプはロムニー(右)と会談した

反トランプで押し通してきたロムニーだが、ロムニー家にはトランプとの意外な接点がある。ロムニーの兄であるスコット・ロムニーの娘、つまりロムニーの姪にあたるロナ・ロムニー・マクダニエルがトランプ派だったからだ。

ロナは、ビジネス界出身で、2012年大統領選挙では叔父のロムニー陣営に参加。共和党全国委員会幹部を経て、2015年にミシガン州共和党の州委員長に就任した。ミシガン州の代議員として、叔父がボイコットした2016年党大会にも参加した。ミシガン州でのトランプ集票にも尽力している。ロムニーの国務長官説は、彼女のトランプとのコネクションから生じていた噂だった。

結果、国務長官候補にはエクソン・モービル出身のレックス・ティラーソンが選ばれたのは周知の通りだが、ロムニーを有力候補として検討した「足跡」はエスタブリッシュメントとの和解効果には十分だった。党本流のロムニーと和解傾向ならば、共和党系の政策エリートたちがトランプ協力に舵を切る口実になる。

トランプ次期大統領は、ロナを共和党全国委員会の委員長に決めた。前任のプリーバス前全国委員会委員長は、ホワイトハウスの首席補佐官になる。初のギリシャ系首席補佐となるため、非アングロサクソンの「ホワイト・エスニック」系の評価は高い。対大統領の関係では、バノン首席戦略官が格上になる見通しだが、ペンス副大統領とともに党本流とのパイプ役を期待されている

また、大使人事では冒頭に紹介したブランスタッド次期駐中国大使のほか駐日大使でハンツマン元中国大使案が浮上しているのも周知の通りだ。一時はジェブ・ブッシュ駐日大使説まで周辺で噂されるほどの主流派への歩み寄り方だった。

だが、こうした巧みなバランス感覚のトランプ人事にも、党内反発は生じている。

トランプと共和党の関係を中から崩壊させる端緒は、リバタリアン(完全自由主義者)派だろうと前々から言われてきた。案の定、ランド・ポール上院議員を筆頭に、「トランプへの幻滅」を早々に示唆する保守系の政治家が出現しつつある。主な不満の矛先は、国務省と経済閣僚の人事だ。そしてインフラ投資に向きつつある。

「トランプ支持基盤」の源流にあるティーパーティ運動の分裂の影が、形を変えてトランプ政権に覆い被さりつつある構造は次稿で詳述する。