トランプと共和党の微妙な距離感〜「暫定的支持」継続のカギは?

主流派からにじみ出るホンネ
渡辺 将人 プロフィール

キリスト教保守への切り札

もう1つの殺し文句は「最高裁」だった。

トランプ陣営にとり、不謹慎ながらも好都合だったのは、保守派のスカリア判事の急逝と、それに伴うオバマ大統領による指名が止まっていたことだ。また、健康不安が噂されるリベラル派のギンズバーグ判事の引退も近いとされ、次期政権中に2名は新判事が決まる見通しが追い風となった。

キリスト教保守にとり悲願の人工妊娠中絶の非合法化も夢ではない。(優先度は人工妊娠中絶ほど高くないが)同性婚も巻き戻したい。他方、ヒラリー政権になれば、最高裁のリベラル化が固定化する。未来永劫、人工妊娠中絶合法判決が覆らないかもしれない。

そこで地方共和党とトランプ陣営は、直前期、福音派向けには「トランプ」と言わず、「最高裁!最高裁!」の呪文だけを唱えた。

アメリカ連邦最高裁〔PHOTO〕gettyimages

シングルイシュー集団には、メッセージも単純に1本でいくのがベストだ。中絶にしか関心のない宗教保守系有権者は、「大統領選挙」ではなく「最高裁判事選挙」に間接投票している感覚だからだ。

その上で、共和党が唯一団結できる「ヒラリー憎悪」の増幅を強化した。エネルギーの大半がネガティブキャンペーンに注がれた(無論、健康問題、FBIのメール問題の再捜査、ウィキリークスの暴露ともシンクロした)。党大会での「ロック・ハー・アップ(ヒラリーを投獄しろ)」の大合唱は、共和党内の分裂を棚上げさせる絶大な効果があった。

ちなみに共和党の政治演出力は民主党を凌ぐ一面がある。筆者はかつて2008年党大会の会場で上層階席に着席していたとき、背後からそっと近づいてきた大会スタッフを名乗る人物に「もっといい場所で見たくないかい?」とフロアの代議員席とチケット(クレデンシャル)の交換を持ちかけられたことがある。

共和党大会でテレビに映る代議員は白人ばかりになりがちだ。「多様性に理解ある共和党」の演出には、有色人種を(代議員でもないのに)フロアに招き、カメラに映り込ませるしかない。大会関係者は上層階にいる一人ぼっちの黒人やアジア人を探しまわっては声をかけていた。

「ポリティカル・コレクトネス」(PC)を気にしないことで民主党と差異化している共和党としては皮肉な実態だが、2008年大会はヒスパニック移民向けアウトリーチ戦略を重視したマケイン候補の年だったこともある。無論、筆者は「外国人」で「招待客」だったので、交換に応じなかった。

こうした観客を巻き込んでのステルス的なメディア戦略は、共和党のほうが巧みな面もあり、2016年党大会でも大会運営側は「ロック・ハー・アップ」合唱の合図を、登壇する政治家の演説内容と順番も考慮して効果的に出していた。

 

地方共和党員のトランプへの醒めた目線

今回、筆者はアイオワ州東部のマスカティーン郡で開催された選挙祝勝夕食会「アイゼンハワー・ディナー」に参加した。共和党の穏健主流派と宗教保守の会合である。

地元のトランプ陣営の活動家も招待を受けたが、尻込みして彼らはほとんど現れなかった。トランプ支持者の「党」への関心の薄さは徹底している。

参加者にトランプの「Make America Great Again」の赤いキャップ姿は皆無、トランプのプラカードは1枚も貼られず、星条旗だけで装飾された。メディア取材が入らなかったので、「トランプ熱」を演出する必要性もなかった。

党幹部の州議会議員、郡委員、州委員長らも、演説ではトランプについて一切言及せず、「大統領府、連邦議会両院を共和党が握った歴史的チャンス」「最高裁保守化で人工妊娠中絶を違法に」を繰り返した。

テーブルの各席には、今回当選したすべての共和党の地元議員や保安官などの顔写真と名前入りのチョコレートが1個ずつ置かれ、「私は何々議員のチョコだ」と楽しむ習わしだが、党公職者の当選を讃える共和党のイベントでトランプのチョコが見当らないのは不自然でもあった。

デザート後の献金オークションが終わりかけた頃、思いだしたように、赤いキャップが2つだけ出品された。トランプ来訪時のサイン入り逸品かもしれない。

しかし、挙手した者は誰もいなかった。「欲しいかい? 代わりに落札してあげようか? 日本に持って帰ったら?」と隣席の州委員に聞かれたが、筆者は「既に持っている。2つも要らない」と、お断りした。

次期大統領のトレードマークの珍品を黙殺する気まずさに耐えかねたのか、党員の1人が手を挙げて、渋々安値で買い取った。

司会者はオークションタイムで赤いキャップを一度だけおどけて被ったものの、前列の党委員にたしなめられて慌てて帽子を脱ぐ一幕もあった。あくまで「共和党の祝勝会」であり、「トランプ」連呼に不快感を感じる参加者への配慮が求められた。