箱根3連覇に挑む青学、その強さを生んだ「体育会らしからぬ」指導法

選手である以前に社会人として
現代ビジネス編集部

「高校時代の理不尽な部活と、大学時代のサークルのような緩くて自由な部活。両方ともダメだと思いました。一方で両方の長所が両立している組織が理想の組織だと思います。

だから、基本としてのルールは厳しく存在し、メンバー全員、ベースとしては同じ方向を向いている。そして、あくまでその土台の上で、学生たちには自由な発想と発言をさせる組織をつくろうとしたんです。

そういう組織で育たないと、大学を出た後に一選手ではなく、一社会人として彼らが困るだろうなあという気持ちもあった。私自身苦労しましたから。つまり、基本的なルールが守れなかったり、自分で発想できなかったりしたら、選手以前に、一社会人としてダメですから」

コミュニケーション重視

選手たちの自主性を促す方法として取り入れているのが、監督自身のサラリーマン(中国電力)時代に学んだ「目標管理シート」と「目標管理ミーティング」。

目標管理シートは、すべての選手に手書きで毎月書かせている。A4の紙一枚に、タイトルと毎月のチームのテーマ、それに対する個人のテーマ、その下に個々の目標と、それを達成するために何をやるべきかを具体的に書かせる。

そしてそのシートをもとに、学生たちで6人ごとのランダムなグループをつくらせミーティングをするのが目標管理ミーティングである。

目標管理ミーティングでは、各グループ、毎回かなりシビアな議論になる。以前は議論に監督が加わることも多かったが、チームが成熟してきたいまは、ほとんど選手たちに任せているという。

このようにコミュニケーションを重視する理由は、選手たちの将来に対する強い思いもある。

「特に箱根駅伝の常連校になると、監督がいてコーチがいてマネージャーがいて、全部がシステムティックに動いていて、選手たちはただ走るだけが仕事というような組織になっている傾向があるんです。

でもそんな環境で四年間を過ごしてしまった人間は、果たして会社に入ってからどうなのか。会社でだいたい出世しているのはラグビーや野球。陸上は厳しい。でも、それじゃおもしろくないじゃないですか。

だからそれを変えたいという思いもあるんです。いままでの陸上部的な指導とは真逆な、コミュニケーションや言葉を大切にする。

目標管理ミーティングなどで、コミュニケーションをとることを指導ノウハウの軸においているのにはそうした意味もある。そうしないと陸上部引退後に会社に入って、コミュニケーション能力のない奴は、出世できません」

ほかにも「朝のひと言スピーチ」やメンバー発表の際には必ず選ばれた選手に抱負を述べさせることで、選手のプレゼン能力と自主性を伸ばす工夫をしている。

自分から言わせる

たとえば、ケガをしてチーム練習ができない選手たちには、自分がどんな自主練習をするのか毎日自分から申告させている。これにはどういう意味があるのだろうか?

 

「目的はふたつあって、ひとつは個々の選手の状況をより的確に私が把握すること。言っている内容もそうですが、言っているときの表情、口調を確認することで、その子のいまの状況が、肉体的にだけではなく、精神的にもよくわかります。

もうひとつは、自分の口で言わせることで、前向きな気持ちで取り組ませるようにすること。人間って他人に言われるより、自分で言うほうが、より自主的に取り組むじゃないですか。

マネージャーなどの学生スタッフに対しても同じです。できないマネージャーは、『監督、今日の練習はどうしましょう』とただ訊いてくる。できるマネージャーは、『監督今日の練習は○○ですけれど、ちょっと暑いので一時間ずらしましょうか』と提案してきます。

自分の中で選択肢を持たないで、ただ訊いてくるマネージャーに対しては、『君はどうしたいの?』と訊き返します」

「相手から答えが出てくるのを待つ」。じつはこれができない上司も多いのではないだろうか。