日本の為政者に「独立国」としての誇りはあるのか?

プーチンが突きつけた問い
白井 聡 プロフィール

なに一つ日本のためになってない

以上のような視角から安倍政権を観察してきた筆者にとって、露プーチン大統領の訪日は、きわめて興味深いイベントであった。

第二次安倍政権の主要政策は、その必然性を『永続敗戦論』一冊ですべて説明可能である(その具体的展開は2015年刊行の『「戦後」の墓碑銘』を参照のこと)。

しかし、北方領土問題の解決に道筋をつけて日露平和条約締結へと踏み出すのだとすれば、それは『永続敗戦論』の図式によって説明できない事象が同政権下で初めて発生することを意味するのだ。

また、そのような方向性が打ち出されることを筆者は期待してもいた。筆者は安倍政権に対して原則的批判者としての立場をとってきたが、それはもちろん「批判のための批判」をしたいがためではない。

『永続敗戦論』では、北方領土問題の解決のためには、「四島一括返還」などという要求は引っ込めざるを得ない、つまりは妥協するほかないことの歴史的背景を説明した。

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だが、対外問題、特に領土問題のようなナショナリズム感情を昂進させやすい問題において、妥協の決断を担えるのは、リベラルな政権ではなく、保守政権であることは、歴史がしばしば証明している(仏ド・ゴール政権におけるアルジェリア問題、米ニクソン政権におけるベトナム戦争など)。

ゆえに、筆者は安倍政権に対して、一日も早い退陣を願いながらも、それが存在している以上、一つでも肯定的な財産を残してほしいと期待してきたのである。

しかし、このような期待が、永続敗戦レジームを死守せんとする政権によってはそもそも実現されるはずがなかったことを、今回あらためて思い知らされた。

その上、訪日直前および訪日時のプーチン大統領の領土問題についての発言の踏み込み具合には、驚かされた。だが、以下に見るように、少し考えてみれば、それらの発言は道理に適っているのである。

プーチンは何を言ったのか

経過を振り返ってみよう。

12月のプーチン訪日が決まった当初(9月頃)、日本の報道機関(特にNHK)は、「今度こそ本当に大きな動きがありそうだ」という雰囲気を漂わせた。また、ロシア政府とつながりを持つと思われるニュース・ウェブサイト「スプートニク日本」も同様の趣旨のコラムを掲載していた。

包括的経済協力のプランをテコとして、領土問題の原則的解決=平和条約締結へと両国政府が本気で歩み始めていると推測させる報道が相次いだのである。

 

しかしその後、交渉成果の見通しについての観測は揺れ動き、11月の米大統領選あたりからは、悲観的な論調がはっきりと支配的になった。訪日直前期に至っては、むしろ「何か一つでも出て来くるのか」が議論の焦点となった感すらあった。

そのなかで、ダメを押すがごとく出現したのは、「朝日新聞」12月14日付の次の報道である。

11月に訪露した、安倍首相の側近中の側近である谷内正太郎国家安全保障局長は、パトルシェフ安全保障会議書記が、日ソ共同宣言を履行して2島を引き渡したならば「島に米軍基地は置かれるのか」と問い掛けたのに対し、「可能性はある」と答えたという。

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