リトル・トランプの跋扈、倒錯する世界…今年の国際情勢の読み方

3つのキーワードで読み解く
笠原 敏彦 プロフィール

仁義なき旋回=pivot

三つ目のキーワードは、「pivot(ピボット、旋回)」である。

この言葉は、イラク、アフガニスタン戦争を経て、オバマ政権下でアメリカが外交・安全保障の基軸を中東からアジアへ移したことを指すのに使われた。すなわち、「アジア回帰=pivot to Asia」という表現だ。

トランプ氏はすでに、オバマ外交からの二つの大きな旋回を明示している。一つは、対ロシア政策での「対立」から「融和」への旋回。もう一つは、イランとの核合意の反故と、イラン関与政策から敵視政策への旋回である。

対露友好路線への旋回は、過激派組織「イスラム国(IS)」などへの対テロ戦争で協調することが目的と説明されている。ロシアとの融和を図ることで、大国外交で対峙する相手を中国に絞るという狙いも当然あるだろう。

しかし、アメリカがロシアによるウクライナのクリミア併合、アサド政権と結託して続けてきたシリア国民の弾圧・殺戮を不問にしてロシアとの関係修復を図るなら、国際秩序を支えてきた価値観に与えるインパクトは計り知れない。それは、「力による現状変更」「人道に対する罪」を許さないという戦後国際政治の大原則を揺るがすことになるからだ。

そのことは、国際統治の原則に関するコンセンサスの崩壊を意味する。

アメリカが、ウクライナ問題での対露制裁解除に動けば、欧州連合(EU)加盟国の結束は維持できなくなり、イタリアやギリシャなどはロシア重視へ旋回するだろう。さらに、北大西洋条約機構(NATO)の盟主としてのアメリカが対ロシアで軍事的緊張の緩和を志向すれば、ロシア脅威論を強める東欧、バルト諸国には衝撃が走るだろう。

EUにとって、トランプ氏の対ロシア融和路線は唐突な「仁義なき旋回」である。イラン敵視政策への急旋回も中東の混乱に拍車をかける。イスラム教スンニ派とシーア派を中心に、米中露など大国が入り乱れて友好関係の組み替え、すなわち生き残りをかけた合従連衡を加速させるに違いない。

トランプ大統領誕生は、中国やロシアの台頭、欧州の地盤沈下などで勢力均衡(バランス・オブ・パワー)が揺らぐ中、勢力均衡を差配するバランサーがいなくなることを意味するのだろうか。

そうなれば、世界各地で国家の安全や経済的利益の確保に向けて合従連衡、外交基軸の旋回が活発化することは想像に難くない。

* * *

最後に日本についても簡単に触れておきたい。

戦後日本の外交は基本的にワシントンのプリズムを通して行われてきた。しかし、トランプ大統領が同盟関係を重視し、同盟国に配慮をした外交・安全保障政策を行うかどうかは現時点では疑わしい。

トランプ政権の誕生は、日本にとって、国際政治のダイナミズムに独自に向き合わざるを得ない試練の始まりになるかもしれない、ということである。