リトル・トランプの跋扈、倒錯する世界…今年の国際情勢の読み方

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笠原 敏彦 プロフィール

当初、この会談は「一つの中国」政策に無知なトランプ氏の失態との見方も出たが、入念に調整されたものであることが分かっている。トランプ氏のツイートの内容は以下の通りである。

“中国は我々に南シナ海の真ん中で大規模な軍事複合施設を建設していいかどうか了承を求めたか”

トランプ氏は12月11日のFOXニュースのインタビューではこうも語っている。

“私は完全に「一つの中国」政策を理解している。貿易関係などで(中国から)合意が得られなければ、なぜ「一つの中国」政策に縛られないといけないのか”

この発信から読み取れるのは、トランプ氏にとって、中国の南シナ海での軍事活動強化という地域の国々にとって死活的な安全保障上の問題も、「最も重要な敵」とみなす中国から経済的譲歩を引き出すための取引(deal、ディール)の材料でしかないということだ。

オバマ現政権は「航行の自由」や「法の支配」など道理的な根拠を掲げ、中国の南シナ海での人工島造成や軍事拠点化を批判してきた。それこそがアメリカの伝統的な外交の在り方である。そして、その外交を背後で支えてきたのが巨大な軍事力だった。少なくとも、アメリカは表明的には体裁をそう整えていた。

それがどうだろう。トランプ大統領の下で、アメリカの軍事力はディールのための「脅し」の道具と化してしまうのだろうか。だとするなら、トランプ大統領のアメリカは内向き、保護主義というより、帝国主義へ堕するのではないだろうか。

アジアの地政学的緊張が高まる中で

トランプ氏には、戦後の自由世界が進歩的に築いてきた外交の規範や慣行を尊重する姿勢が微塵も見られない。世界にとってやっかいなことは、不動産王としてのリスクを厭わないビジネス手法がそのまま外交交渉にも反映されそうなことである。

 

アメリカの対中政策は、1972年のニクソン訪中での上海コミュニケ発表以降、継続性を維持してきた。中国をアメリカ主導の国際システムに組み込んでいくという戦略だ。

その分かり易い例が、息子ブッシュ政権下で2001年に中国を世界貿易機関(WTO)に加盟させたことだろう。

しかし、中国は近年ますます、アメリカとの協調よりも「戦略的な競争相手」への傾斜を強めているように見える。オバマ政権の初期には、中国の急速な軍備増強に対する懸念は「その意図が不明だ」というものだった。それが今や、南シナ海の人工島の軍事拠点化などで実力行使に打って出ているのが現状だ。

こうしてアジアでの地政学的緊張が高まる中で、トランプ大統領が就任する。

トランプ氏の掲げる「アメリカ第一主義」を簡略化すれば、外交・安全保障政策をアメリカに雇用、経済的利益を生み出すための手段にするということだろう。こうした思考の持ち主がアメリカ大統領に就任することは、一方の中国外交にとっても試練であり、綱渡りの連続となることだろう。

トランプ大統領の任期4年の最終盤は2020年の東京五輪開催と重なる。少々大袈裟なシナリオかもしれないが、米中間の摩擦が経済・貿易面に止まらず軍事面にまで至れば、五輪開催に影響が出る事態も完全には排除されないことを、日本は視野に入れておくべきかもしれない。