『コンビニ人間』だけじゃない!2016年必読の日本小説ベスト12

年末年始に読んでおきたいオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

モラルハラスメント

校内のいじめや子どもの虐待、女性のレイプ事件などの報道が後を絶たない一年でしたが、精神的な暴力を指す「モラルハラスメント」(モラハラ)という言葉も、しばしば聞かれました。隠微であるがゆえにたちの悪いモラハラを描いた小説をご紹介します。

8 山田詠美『珠玉の短編』講談社

11編を収録する短編集。なかでも、川端康成文学賞を受けた「生鮮てるてる坊主」は、「セックスのない男女の関係こそ始末がわるく罪深い」というお話で秀逸です。

ある男と女友だちは、性を超越した男女の友情というコンセプトに取り憑かれています。ふたりは「恋愛感情なんて安っぽいもの」がないことを盾に異性関係を深く楽しみ、男に妻がいるからこそ、自分たちの関係をいっそう「稀有で美しい」と思っています。考え方の幼い妻にはこの高次元の男女関係は理解できないと思うと、ふたりはますます興奮を覚え、ますます妻の心を苛む。

いや、この隠微ないじめのねちっこいこと。ところが、ある日を境にこの香しい友情は芬々たる悪臭を放ちだすのです。ラストにかけてうち重なるツイスト。これは何百ページものホラーより恐ろしい。小説にはびこるありがちな常套句やクリシェを一蹴する作品集。

9 角田光代『坂の途中の家』朝日新聞出版

三重、四重の意味で恐ろしい犯罪小説です。ある主婦が、8ヵ月の乳児の娘を虐待死させた事件を、多角度から扱います。

事件の背後に、夫による悪質なモラルハラスメントがしだいに浮かびあがってきて、これがまた非常に怖い。さらに、裁判員に選ばれた主婦は被告人の受けていたモラハラのつらさにだんだん共感し、犯人と自分の区別がつかなくなっていく。これも恐ろしい。

もう一つの恐ろしさは、作者の果敢なアプローチにあります。大半が法廷シーンでありながら、その場面に会話文がほぼ一切使われていない。会話のない法廷小説なんて見たことがありません! 審理場面はほぼすべて、ヒロインの目と耳を通した「要約」の形で書かれるので、どんな言葉の応酬があったのか当事者にしかわからない。

「養われている分際で」とか「甲斐性なし」などの言葉が飛び交ったのかどうか……言葉にひそむ暴力性をあばいた心理サスペンスです。角田光代の挑戦は毎作、すごい!

(ちなみに、井上荒野綴られる愛人もモラハラを背景においた小説です。)