『コンビニ人間』だけじゃない!2016年必読の日本小説ベスト12

年末年始に読んでおきたいオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

音楽小説が流行ったワケ

前回の本屋大賞は、ピアノ調律師を主人公にした、宮下奈都の『羊と鋼の森』でしたが、このところ日本の出版界は、音楽小説ブーム。

2015年が、ショパン国際ピアノコンクール(5年に1度開催)と、チャイコフスキー国際コンクール(4年に1度)が重なる20年に1度の年であり、日本の浜松国際ピアノコンクール(3年に1度)開催の年だったことも関係あるかもしれません。

4 恩田陸『蜜蜂と遠雷』幻冬舎

間違いなくそれと関係があるのが、この小説。近年ショパンコンクールの前哨戦の1つともいわれる浜松国際の現場取材に12年を費やし、同コンペをモデルにして、4人のコンテスタントの人生を描く群像劇の大作にして傑作です。

作者はしばしば音楽界と文学界をさりげなくだぶらせる書き方をしますが、どちらもコンテストばかり乱立していて、食べていける人はほんの一握り……とか。うう、厳しいですね。他者にも自分にも牙をむく「才能」というものの残酷さも描かれます。

巻頭に、第1次予選から本選まで、4人の弾く曲の一覧が掲載されているので、それをつらつら眺めつつ展開を予想するのも、楽しみ方の一つ。作中で弾かれる約60曲がすべて文字で表現されます。

4人のライバルたちの演奏も魅力的。気の強い中国系アメリカ人の女性ピアニストが古典派ソナタの課題で、ベートーベンの「ワルトシュタイン」なんかでがんがん攻めてくると、「きた、きた」と盛り上がります。音楽と文学が美しく睦んだ小説です。

5 平野啓一郎『マチネの終わりに』毎日新聞出版

13万部突破と話題の、極上の大人の恋愛小説です。主人公はクラシックギター界のスター。ピアニスト、バイオリニストではなく、クラシックのギタリストが主人公なのは珍しく、弦楽器好きの私としては嬉しいかぎり。

38歳で独身の「蒔野」は、ある晩のコンサートを観にきた通信社記者の女性「洋子」の知性と人柄に惹かれますが、洋子にはアメリカ人の婚約者が。同時に、天才と持て囃される蒔野は、自分の演奏に密かながら決定的な危機感を覚えている。

ふたりの関係は、蒔野の音楽家としての長いスランプのみならず、イラクでのテロに遭遇した洋子の後遺症にも左右され揺れ動きます。

冒頭、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」に始まり、ヴィラ=ロボスの「ガボット・ショーロ」、ピアソラの「タンゴ組曲」、ブローウェルの「黒いデカメロン」、ほかにもビートルズ(武満徹編曲)、スティーヴィー・ワンダーなどの名曲が彩るぜいたく極まりない音楽小説です。作中の音楽を収録したCDも発売されています。