輪島功一「北方領土に生まれ、日本人初の重量級世界王者になるまで」

【最強さんいらっしゃい】第5回・前編
細田 マサシ

大器晩成とはこのことか

──これは、どの職種でもいえることですが、ハンデがあるからこそ、逆に我流を築き上げる、そういうことですね。
輪島 俺はリーチが短いだろ、だから普通にジャブを当てようと思っても当たらない。とすると、相手の懐に入っていくしかないよな。そうすると、自然と相手も手が出るから、打ち合いになる。打ち合いには自信があったからおのずとKOが増える。KOが増えるとお客さんも盛り上がって、人気が出る。そこまで考えてるんだよ。

──なるほど! ということは、リーチが短かったことで、最強の輪島スタイルを完成させたんですね。もしリーチが長かったら今の輪島会長はない、ということですかね?
輪島 いやいや、アウトボクシングを徹底的に追究して記録的な防衛回数を打ち立ててるよ! なんなら5階級制覇とかやり遂げたと思うよ!(笑)

──確かにその探究心があれば、それも可能だったかもしれませんね。
輪島 そうやって真面目にやってると、手を差し出してくれる人が現れるもんなんだ。それが今、国際ジムの会長をやっている高橋美徳さん。あの当時三迫ジムのトレーナーだったんだ。それで高橋さんの指導の下で、ワンツーをひたすら磨いた。これは武器を手に入れたと思ったね。

──その間も土方の仕事は続けているわけですよね。で、そのかたわら夜はボクシングの練習と。
輪島 そうそう。だんだん自分が強くなっていくのがわかったね。相変わらず扱いはひどいもんだったけど、そんなの関係ない。自分がどうなっていくかだから。やりがいってそういうもんでしょう。

──そしていよいよデビューということになるわけですか?
輪島 最初はウェルターでデビュー。相手はいっぱいいたよ。だって、25の年寄りが相手だから、楽勝だと思われるんだ。でも、こっちは年齢も何も関係ないと思ってるからさ。みんなぶっ飛ばしてやると思ってるわけ。それでデビューから7戦7勝無敗。7KO勝ち!

──凄い!
輪島 8戦目で判定勝ちになるんだけど、そこからはまた3連続KO勝ち! そうなるともう笑われないよ。ジムの中でも、俺を見る目も扱いも変わってくる。サンドバック叩いても「どけ」なんか言われない。わかりやすい世界だろ。結果を出せばいいんだから。

──このKO街道は日本タイトルを獲得しても続きますね。
輪島 Jr.ミドルに階級を上げてね。選手層が薄いからチャンスだと思ったんだ。2度目の防衛戦で負けるんだけど、2ヵ月後にまたベルトを取り返してさ。そこから5連続KO防衛だからさ。

──最強ですね! となると当然、世界が視野に入って来たと思うんですけど。
輪島 そうだよな。でも三迫会長はあんまり乗り気じゃないんだ。世界までは無理だろうと思われたんだろうな。このまま日本王座を防衛させとこうってことだったのかもしんない。だからしつこく「世界ランカーとやらせてください」って頼みこんでさ。

──世界ランカーを倒さないと世界ランキングに入れない、すなわち世界王者に挑戦できないってことですもんね。何年か前に、その順序も踏まずに世界ランカーになって物議をかもした選手がいましたが(苦笑)。
輪島 それで、なんとか頼みまくって、金沢英雄との試合が決まったんだ。金沢は当時重量級のスター選手でね。世界ランカーだったから俺よりも格上だと思われてた。ノンタイトル戦だったけど、ファイトマネーを積んで、どうにか引っぱり出したって感じだな。前の試合から1ヵ月しか時間がなかったけど、関係ないよそんなの。

──金沢英雄さんといえば、最強のスーパーフライ級世界王者として一時代を築く徳山昌守を育てた金沢ジム会長ですね。
輪島 その金沢を2RKOだよ!これで世界が視野に入った。ここまで来たら行くだけ行ってやれってな。

──そこで決まったのが、世界Jr.ミドル級王者、イタリアのカルメロ・ボッシです。ローマ五輪銀メダリストの技巧派。2度目の防衛戦に輪島会長を指名してきたんですね。
輪島 向こうからすれば、楽な相手だと思われたんだな。相手は技巧派だから無理に打ち合わないのはわかってたんだけど、とにかく、フットワークに翻弄されて負けるのが怖かった。だからいろいろと奇策を用意したの。

そこで出てくるのが天下のカエル跳びだよ!

(明日公開予定の後編に続く)