今回は、2017年の世界がどうなるのか、その読み方を教えよう。
2016年は、のちに振り返ったときに「国際政治の転換点」と評価されるだろう。キーワードはパワーバランスの変化の兆しである。
現在世界の超大国は、国連常任理事国のアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国である。アメリカは次期大統領にトランプ氏が選ばれたが、「アメリカを再び偉大にする」(Make America Great Again)というアメリカ第一主義のスローガンからも分かるとおり、基本的には内向きになる。イギリスはEU離脱で忙しく、フランスも欧州難民問題への対応でともに内向きになっている。
一方、ロシアはシリア問題で存在感を見せ、トルコも巻き込み、今は中東問題を一番リードする国になっている。中国は、国内経済の低迷のはけ口を外に求めるかのように、南シナ海への海洋進出を進めるなど、拡張国家にならんとしている。ロシアも中国も外向きである。
こうした内と外が交わる時には、パワーバランスが崩れる可能性がある。かつての冷戦構造は既にないが、冷戦で勝利した旧西側のアメリカ、イギリス、フランスが内向きで、旧東側のロシア、中国が息を吹き返したように外向きになっている。
特に、アメリカ、ロシア、中国の動きに注目したい。それを分析することで、日本のとるべき道が見えてくる。
まずアメリカであるが、次期大統領のトランプ氏がどう出るか。もともと相対的な経済力の低下とともに、アメリカが世界の警察官であり続けるのは難しくなっている。
オバマ大統領も、2013年のシリア問題で「アメリカは、もはや世界の警察官ではない」と述べている。トランプ氏は、その流れに乗っており、ビジネスライクな発想でその動きを加速するのではないか。
その最たるものが、「アメリカはNATO(北大西洋条約機構)から手を引く」という発言だ。加盟国がNATO負担金を払わないなら、その国が他国から攻撃を受けてもアメリカが助けるとは限らないといったのだ。
もっとも、この発言は、旧ソ連圏にいたバルト三国(リトアニア、エストニア、ラトビア)がNATO分担金を払っていなかったことに発したので、バルト三国がロシアに寝返れないことを見越したものだ。バルト三国が少しでもアメリカに誠意を見せれば、この志向はなくなるかもしれない。
しかし、この「NATOから手を引くかもしれない」発言は大きな影響をもっている。NATOと表裏一体のEU(欧州連合)の結束にほころびが生じ、これまでNATOの一員でありながらEUへの加盟を拒まれてきたトルコが、ロシアに接近する姿勢を見せ、NATO加盟国の動揺を誘っているからだ。
一方、アメリカとロシアの関係は、これまでより良好になりそうだ。
ロシアは、米国大統領選でクリントン氏が不利になるようなサイバー攻撃を仕掛けてきたようだ。これは、欧米が中心になってリオ五輪直前にロシア・ドーピング問題を取り上げ、ロシアのリオ五輪参加に待ったをかけたことに、プーチン大統領が激怒して、意趣返しをしたとも噂されている。
トランプ氏は、自分の当選を援護したプーチン氏に好意的であり、アメリカ次期国務長官に石油大手のエクソンモービルのレックス・ティラーソン会長兼最高経営責任者(CEO)を指名した。
ティラーソン氏は、これまで数回、プーチン大統領と面会したことがある。2013年には、プーチン大統領が外国人に授与する最高賞である「友情賞」を受賞しており、2014年ロシアのクリミア併合の際、オバマ政権による対ロ経済制裁に反対した人物だ。おそらくアメリカは、トランプ政権になったら対ロ経済政策を解除していくだろう。