石川さゆり『津軽海峡・冬景色』はなぜ国民的名曲となったのか?

冬に聴きたくなる理由
週刊現代 プロフィール

マーティ アメリカ人はそうした繊細なところには気が付きにくく、何よりも正確な歌い方を重視する傾向があります。セリーヌ・ディオンのようなピッチが完璧な歌手が支持される。でもそれだけじゃつまらない。

僕としては、女性だからこそ使える武器を出してほしい。完璧な歌唱のなかに、時々は弱さを感じるようなメリハリがあっていいと思う。さゆりさんの歌い方には、女性らしい強さと、か弱さの両方が秘められている。

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それまでの演歌とは違った

三田 さゆりさんの歌自体は演歌ですが、ことば数やリズムそのものはいわゆる演歌ではないのもこの曲の魅力ではないでしょうか。マーティさんがギターで弾いたり、あがたさんのようにパリの公園で歌うような雰囲気でカバーしたりと、アレンジが効く曲なんです。多様なアレンジができるというのは、名曲の条件だと思いますね。

マーティ アンジェラ・アキさんもこの曲をカバーしていますが、素晴らしい仕上がりです。最初は原曲通りなのですが、途中でアレンジが入って別の形で優れた曲になっている。本当に色んな顔ができる歌だと思います。ミュージシャンであれば、いい曲を聴くと「自分だったらこうしたい」と自然に浮かんでくるんですよね。そんな曲だと思います。

三田 当時には珍しく、メロディが先で後から歌詞をつける「メロ先」という作り方で作られているんです。ポップスではメロ先はあったと思いますが、演歌では歌詞が先の曲がほとんどだった。それだけ『津軽海峡・冬景色』はメロディに拘りがあったということですね。

マーティ この曲のメロディにはいい意味で「しつこさ」があります。しつこい、というと悪いイメージで捉えがちですが、美しいメロディの繰り返しがあるということです。

抽象的な現代クラシック音楽のような、二度と同じ旋律が出てこないような音楽ってすごく聴きにくさを感じるでしょう。この曲のようにシンプルにメロディがリピートする歌は、非常に受け入れられやすい。

 

あがた 同じメロディを繰り返すことで中毒性のある曲になっていますね。

三田 今世界的に大ヒットしているピコ太郎なんかもそうかな(笑)。

マーティ 「しつこさ」はヒット曲の秘訣の一つですね。次にリリースされた『能登半島』もそうなのですが、この頃のさゆりさんの曲は『津軽海峡・冬景色』と似たメロディで、サビになるといきなり高音になるような曲が多い。もう一度ビッグヒットを狙っていたのでしょう。

あがた メロディもさることながら、やはり阿久悠さんの歌詞も素晴らしい。僕自身、まさにこの歌の舞台になった青森で小学校時代を送りました。その後、中学高校時代に函館で暮らし、津軽海峡を挟んだ場所でかなりの時間を過ごしています。

夏の間だけ青函連絡船内でアルバイトをしたことがありますが、一便ごとに色んな別れや出会い、旅立ちのドラマがあるんです。

出船の際には乗客が岸に向かって紙のテープを投げ、蛍の光が流れるなか徐々に船が岸から離れていく。当時の青函連絡船は4時間程かけて函館に向かうわけですが、津軽海峡を越えるともう二度と会えなくなるんじゃないかという惜別もありました。

「私もひとり 連絡船に乗り」のところなんか特にそうですが、阿久さんの歌詞は旅人の思いや情景を実によく表しているなと思います。