Photo by Hiroshi Takezawa

まさか手作業だったとは…名車「NISSAN GT-R」のエンジン作り

至高のスーパーカーはこうして生まれる

提供:日産自動車

ここは食品工場?

〝創業の地〟として1933年に誕生し、現在では年間およそ45万基ものエンジンやモーターを生産する日産自動車の横浜工場。

約54万㎡という広大な敷地の一角に、工房といった趣の〝クリーンルーム〟がある。

室温は年間を通じて23℃前後に保たれ、ドアの開閉時にチリやホコリが流入しないよう、気圧は外部よりいくぶん高めの1.2気圧に調整されている。

まるで食品加工工場のような清潔さと言えるが、ここでは数ある日産車のなかでも〝頂点〟に君臨する、GT-Rの心臓部「VR38型」エンジンが組み立てられているのだ。

GT-Rの中枢「VR38型」エンジン Photo by Hiroshi Takezawa

横浜工場エンジン課係長の宮崎裕司氏が解説する。

「一年中、同じ温度にしているのは、金属部品の〝熱膨張〟を防ぐためです。一般的な自動車工場だと、夏と冬では室温が違う。同じ型式のエンジンであっても部品の膨張によって許容範囲ではありますが、厳密に言うと個体差が出る場合があります。

しかし、弊社の技術の粋を集めたGT-Rはすべてのエンジンが等しく最高の性能でなければならない。そこで室温調整を徹底しているのです。

エンジンに用いる〝シリンダーブロック〟や〝クランクシャフト〟といった、鉄やアルミでできた部品は組み立ての3~7時間前にはクリーンルームに搬入し、じゅうぶん室温に馴染ませてから作業に入ります」

ときおり鋭い金属音が鳴り響く室内では、ホコリを吸い寄せない特殊なユニフォームに身を包んだエンジニアたちが、厳しい眼差しでエンジンの組み立て作業にあたっている。

彼らは、横浜工場の従業員約2,900名のうち、わずか5名しかいない「匠」と呼ばれるスペシャリストたちだ。

100分の1ミリを手で感じ取る

現代の自動車業界はオートメーション化が進み、エンジン組み立ての場合、全工程のうち半分近くを工業用ロボットが担うことも少なくない。

そんな時代にあって、GT-Rのエンジンはすべて匠たちがひとり一台ずつ手作業で組み立ているのだという。

2007年に最年少の31歳で匠になって以来、10年にわたってVR型エンジンを作ってきた塩谷泉氏が語る。

「たとえば、A、Bというふたつの部品があったとします。どちらの部品も、単体であれば規格に合っているかどうか機械でも判断できます。しかし、このAとBを組み合わせた時に初めて生じるごくわずかな誤差――数字でいえば10ミクロン(100分の1mm)程度の違いというのは、人間の手で触ってみないとわからないんです」

クリーンルーム内でひとつのエンジンに用いられるパーツは375点。匠たちは部品の仕上がりをひとつひとつ念入りに確認したうえで、丁寧に組み上げていく。

5人しかいない匠の一人塩谷泉氏 Photo by Hiroshi Takezawa

1基組み上げるのに要する時間は2時間から2時間半。ひとりで1日あたり2~3基を作るという。

「ひとたび作業に入ったら、そのエンジンが組み上がるまで食事やトイレに行くことはありません。2時間はひたすら組み立てに集中しています」(塩谷氏)

エンジンはクルマにとって最も重要なユニットだ。しかもVR38型は3.8リッター570馬力と最高クラスの性能。作業に慎重さが求められるのは当然と言える。だが、1日あたり延べ6~7時間も集中力を切らさないというのは、並大抵のことではない。

そんな超人的な集中力を持つ匠が、細心の注意を払う工程が「バルブクリアランス」の確認作業だ。

このバルブクリアランスとは、〝カムシャフト〟と〝バルブリフター〟というふたつの部品の間にできる隙間のことで、基準はわずか40ミクロン。これより狭すぎても広すぎても、エンジンの出力低下につながってしまう。

「作業は〝シックネスゲージ(隙間ゲージ)〟という、10ミクロン刻みで厚みの違う複数のゲージを差し込んで行います。シックネスゲージを差し込んだときの手触りで狭いのか、広いのかを判断する。もし、基準に合わない場合は別の部品に取り換えてもう一度測定します」(塩谷氏)

実際に作業を体験させてもらったが、どのゲージを差し込んでも、同じような手応えにしか感じなかった。〝選ばれし者〟にしかわからない微細な領域なのだろう。