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なぜいま中東では「独裁の復活」が起こっているのか?

大混迷の構造を読み解く
末近 浩太 プロフィール

勢力拡大を続けるイスラーム過激派

エジプトとシリアにおける「独裁の復活」に共通するのは、それを担うのが軍部の力に大きく依存した世俗主義政権であるという点である。

これは、逆に言えば、イスラーム主義者たちが再び反体制派としての地位に収まったことを示唆する。

「世俗主義政権」対「イスラーム主義の反体制派」という対立構図は、中東の各国で半世紀以上にわたって続いてきたものであり、特段新しいものではない。その意味では、イスラーム主義を取り巻く環境も、やはり「逆廻し」を見せていると言える。

しかし、過去と異なる点もある。両者の対立の激しさである。「独裁の復活」の結果、イスラーム主義者たちは「テロとの戦い」の名の下に「テロリスト」としてこれまで以上に厳しい取り締まりや激しい弾圧を受けることになっている。

ISも例外ではない。2016年は、イラクとシリアにおけるISの勢力が後退期へと転じる1年となった。

イラクでは、10月から国軍と民兵組織の連合軍がISの一大拠点モースルの解放作戦を展開している。都市包囲戦となる同作戦は、ISの戦闘員を完全に掃討するまで続けられ、作戦終了後にはイラク政府による統治が回復することになるだろう(が、かつて一部の住民がISを歓迎したモースルの統治のあり方については政治勢力間の新たな火種となることが懸念される)。

他方、シリアでは、ISの「首都」ラッカの攻防戦が激化している。11月より、クルド人を主体とするシリア民主軍——アサド政権と戦う反体制諸派の1つでもある——が、ラッカの解放を目指し、大規模な軍事作戦を展開中である。

このように、中東各国で体制側によるイスラーム主義者に対する攻勢は強まっており、力によって彼らを排除した「安定」の確立に向けた営みが続けられている。

しかし、「穏健」も「過激」も十把一絡げに「テロリスト」とするこうした営みが、過激派の伸張を後押しする側面があることは誰の目にも明らかである。行き場を失ったイスラーム主義者たちの一部が、ISをはじめとする過激派としてゲリラ的な武装闘争やテロリズムに次々に参加している。

彼らは、政府による統治が緩くなった場所を自らの活動のために「聖域」に変えていく。エジプトではシナイ半島で、また、紛争の続くリビアでは北中部の都市シルト周辺で、ISがプレゼンスを高めた(シルトについては、2016年12月17日、リビア統一政府がISの掃討の完了を発表している)。

思想的に見ても、過激派の主張が持つ訴求力が弱まっているとは言えない。大規模な軍事作戦は「組織」や「国家」としてのISを破壊できても、「思想」を根絶することは困難であろう。

むしろ、世界中の潜在的なIS支持者のあいだで、自衛のための戦争(ジハード)の機運を高め、自発的なテロリズムに向かわせるといった逆効果があることも無視できない。

事実、中東や欧州での「ISによるテロ」の飛び火は続いている。2016年12月だけでも、ヨルダンのカラク(観光遺跡)、エジプトのカイロ(キリスト教会)、ドイツのベルリン(クリスマス市場)などで事件が起きている(拙稿「ゼロからわかる『イスラーム国』が世界的な一大現象になるまで」)。

トルコも例外ではない

「逆廻し」という意味では、トルコにおける「独裁の復活」を無視することはできない。

 

トルコは、1923年の独立以後、度重なる軍によるクーデタと軍政の盛衰を経て、中東における民主主義の優等生、さらには、西洋近代のイスラームとの調和の実例として賞賛されるまでになった。

しかし、そのトルコも、大きな転機を迎えている。

トルコでは、2003年より公正発展党(AKP)による長期政権が続いている。同党を率いるエルドアンは、3期にわたって首相を務めた後、2014年には新たに導入された直接選挙制度を通して大統領の座に着き、自らへの権力の集中を推し進めていった。

このエルドアン大統領による独裁化への動きは、2016年7月の軍の一部によるクーデタ未遂事件によって、頂点を迎えることになった。

クーデタに関与した(疑いのある)軍人・市民の逮捕にとどまらず、大統領の言動に批判的な司法、マスメディア、大学教授などに対する「粛正」を実施したのである。その「粛正」は、今も続いている。

トルコは、中東のなかでも地理的にも政治的にもEUに最も近い国であり、中東と欧州の両方に強い影響力を持つ国でもある。エルドアン大統領による今後の執政が注目される。