伝説の未解決事件「三億円事件」、あの時何が起こったのか

完璧な計画か、それとも偶然か
週刊現代 プロフィール
〔PHOTO〕gettyimages

自殺した「少年S」の謎

永瀬 あとから見ると、不手際はいろいろあるんですね。たとえば犯人が現金輸送車からジュラルミンケースを積み替えたカローラは事件の4ヵ月後に団地の駐車場で発見されます。

ところが発見したのは警察ではなく自動車のセールスマン。あれだけの人員を投入して、なぜ警察は見つけられなかったのか。

江藤 捜査態勢にも問題はあったと思いますよ。この事件は窃盗ですから本来なら捜査三課が担当する事案です。しかし世間の注目が集まっているからと警視庁の捜査一課が投入された。本庁の一課が出てきたりしたら、所轄は黙って従うしかない。ところが一課というのは殺しが専門で、窃盗犯の心理などには疎いんです。

渡辺 有名なモンタージュ写真が作られた経緯にも謎が多いですよね。すでに死亡していた実在の人物の写真を流用していたことが明らかになって、のちに撤回されている。世間は「これが三億円事件の犯人の顔だ」と思っているけど、関係ない人の写真なんですよね。

永瀬 輸送車にいた銀行員たちは、実は犯人の顔をよく覚えていなかったようですね。しかし唯一の目撃者ですから、大量の写真を見せられて、「こんな顔か」と繰り返し聞かれ、つい、似ていると言ってしまった。撤回されたとき「よかった、あれは違うんです」と言った人もいたそうです。

江藤 一課的な捜査手法の悪い面が出てしまったのかもしれません。「どうだ、どうだ」と繰り返し聞いて、曖昧に答えると「お前も仲間なのか」と疑うような強面な態度も取ったかもしれない。三課なら、もっと落ち着いた捜査をしたと思いますが。

永瀬 捜査の途中から現場を指揮した本庁捜査一課の平塚八兵衛氏が単独犯説を強硬に主張した結果、捜査に混乱が生じたという人もいます。

渡辺 今同じ事件が起きたとしたら犯人は逮捕されるでしょうか。科学捜査も進歩していますし。

江藤 そうですね。まず今は街の各所に防犯カメラがありますよね。それに当時、遺留品から判断できたのは血液型や指紋まででしたが、現在ではDNA鑑定もあります。

永瀬 三億円事件の被害額を更新して日本犯罪史上最高金額になった'11年の立川六億円事件というのがあるんです。先頃この事件を追った本を書いた際に取材したんですが、警察はあっという間にカネの流れを捕捉して、強盗たちが使った口座まで解明していました。

江藤 犯人像について、永瀬さんの意見をまだ聞いていませんでしたね。

永瀬 江藤さんの左翼組織犯行説をうかがってぐらついているんですけど(笑)。私自身は複数で、実行犯はいわゆる「少年S」だと考えてきました。

 

渡辺 いわゆる「立川グループ」説ですか。

永瀬 そうです。立川を根城にしていた暴走族である彼らは、三億円事件の少し前にも発煙筒をダイナマイトに見せかけてスーパーマーケットを襲う事件を起こしていて手口に共通性が多い。少年Sの父親は白バイ隊員で、白バイを日頃から目にする機会もありました。

渡辺 僕もSが関わったのは同感ですが、もう一人、計算高く冷たい心の大人が関わったと推測しています。そういう人物が、無鉄砲な少年を使ったんじゃないかと。

永瀬 Sは聞き込みで警察官が自宅を訪ねた日の夜に青酸カリで自殺しているんですよね。ただ、その青酸カリが包んであった新聞紙には、父親の指紋しかなかった。ここにも謎が残っています。

渡辺 真犯人が誰だったにしても、今も生きているとしたら、いつの間にか時代を象徴する伝説の犯罪に祭り上げられたことを不思議に感じているんじゃないでしょうか。

永瀬 物書きの立場から言えば、死ぬ前にはぜひ手記を書いてほしいですね。でも、この犯人はそんなことしないかな(笑)。

江藤 番号が控えられていた500円札だけでも束にして警察に送ってくれば面白いんですが。

渡辺 解決していればただの窃盗事件だけれども、未解決だからロマンを感じさせるんですよね。

永瀬 真犯人は誰で、3億円はどこに消えたのか。その想像の余地が広いことが、この事件の最大の面白さなんでしょう。

ながせ・しゅんすけ/'60年鹿児島県生まれ。作家。三億円事件を題材にした小説『閃光』は映画化もされた。近著に『毟り合い 六億円強奪事件』(講談社+α文庫)など
わたなべ・じゅん/'68年東京都生まれ。漫画家。2010年発表の『三億円事件奇譚 モンタージュ』で犯人と子供たちが辿る宿命を描く。現在ヤングマガジンで『クダンノゴトシ』連載中
えとう・しろう/'57年福岡県生まれ。警視庁公安部、内閣情報調査室などを経て退官。「濱嘉之」名で小説を執筆。近著に『警視庁情報官 ゴーストマネー』(講談社文庫)

「週刊現代」2016年12月24日号より