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「つるとんたん」経営のあの会社は、なぜ好調をキープできるのか?

その秘訣を社長に聞いた
カトープレジャーグループの加藤友康社長

ホテル・レストラン王の登場だ。カトープレジャーグループCEO・加藤友康氏(51歳)。24歳でうどん専門店「つるとんたん」を開業し、'16年にはニューヨーク出店を果たしている。また、箱根、熱海でラグジュアリーリゾートを展開。様々な宿泊施設から再生を依頼される「店舗・ホテル作りのアーティスト」だ。

理詰めの商売はしない

【地の力】

ホテルやレストランを開業するため、年間1000件を超える物件に足を運びます。中でも「ここだ!」と思うのは「地が持つ力」を感じた時です。例えば私たちは、三井財閥が箱根に持っていた別邸をリノベーションし、完全にプライバシーが確保できるスモールラグジュアリーリゾートに仕上げました。明け方、杉林の中の温泉につかれば、皆さんもきっと、なぜ三井財閥がここを別荘地に選んだか感じていただけると思います。

そして「地の力」を感じたら、その地にそぐわしいサービスや施設を創り上げるのです。だから私たちのホテルはチェーンでなく、似たような施設はひとつもありません。逆に「この坪数に無駄なく部屋を詰めれば何年で減価償却が終わり……」といった理詰めの商売はしません。それなら、もっと上手い方がいるでしょう。

【早く食え】

私の父は洋服店や飲食店を営んでいました。彼は私に「よく噛んで食べなさい」でなく「早く食べる練習をしろ」と言いました。また彼は「早く寝ろ」でなく「遅くまで起きている練習をしろ」とも言いました。理由は簡単です。「お前は俺の子だから頭はよくない。だから、寝食の時間を削って人の2倍努力して、やっと1・5倍の成果が出る」と―。おかげで起業したばかりの頃は1年半ほど、布団で寝なくても平気だった覚えがあります。椅子でうとうとし、目が覚めたらまたすぐ働けました。

 

【夜明け】

高校生の頃、将来はショービジネスに携わろうと決めていました。私自身、バンドマンでしたし、同時にイベント会社の下請けの仕事もしていました。人手が足りないと、友人に「タダでコンサートが見られるぞ!」と連絡し、舞台の搬入出や警備の仕事をしてもらったのです。今そんなことをしたら問題ですが、大らかな時代だったのでしょう。

ところが大学入学後、父が病に倒れました。私も商売を手伝っていましたが、はやってないし、借金は多そうだし……。この時、商売を継いで苦労するか、自分の好きな音楽の道に進むか決断が必要でした。そして、商売を継ぐ道を選ぶことは、まだ若かった私には本当につらく感じました。ただし、結果的に良い選択だったことは言うまでもありません。今はこう感じています。

人は結局、何をやるかより、これと決めたことをなりふり構わずやるほうが大切なのだろう、と。そして、必死になれば自然と運は向いてくるのかもしれない、とも―。

「心」で接するおもてなし

【糟糠の妻】

妻とは、起業後の苦しい時期に結婚しました。私のことが「かわいそうで見ていられなかった」らしい(笑)。「糟糠の妻は堂より下さず」と言う通り、今もずっと感謝しています。実は、一度も喧嘩したことはありません。

喧嘩もクレームも「ダブルミス」で起きると思います。仮にレストランで水が出てこなかったとします。これが第一のミスです。店員さんに「まだ?」と言ったら、無愛想に「今忙しいんでお待ち下さい」と言われたとします。これが第二のミス。そして、人は2回目のミスが起きると「なんだと!?」となります。その点、妻は私が何か言っても必ず「ごめんね」と柔らかく受け止めてくれます。時には妻だって私に物申す時がありますが、そんな時は、私が彼女をまね、柔らかく受けます。

【心】

スタッフの方々が力を発揮するには、適切な教育制度と人事制度が重要です。しかし、これより大事なことがあります。「心」です。社員も家族と同じで「この人はイザとなったら身を挺してでも私を守ってくれる」と感じる人の言うことには、耳を傾けてくれるものです。時に厳しい言い方をしても、私利私欲なく「部下のため」「会社のため」「お客様のため」であれば、伝わるのです。

【風呂掃除】

サービス業の究極の目的は「心」をお客様に伝えることです。例えばある施設の再生に携わった時、元々事務方だった者にリーダーを任せたことがありました。すると、以前から現地にいるスタッフは突然やってきた若いリーダーに戸惑い、私も「このままでは反発を買うかも」と危惧しました。すると彼は、自分自身で考え、何と毎日、全部屋のお風呂を自分で掃除しはじめたのです。

普通ならそんな方法はとらないかもしれません。しかし彼は、私が毎日汗を流し、スタッフやお客様に心を込めて接していることをつぶさに知っていました。だからこの時「汗をかき、真心込めて働けばスタッフはついてきてくれる」と考えたのでしょう。すると、すぐにスタッフとの距離は縮まったようです。

このように、私は今後も「心」を通してお客様と対話できるホテルやレストランを創り上げていきたいと考えています。

(取材・文/夏目幸明)

加藤友康(かとう・ともやす)
'65年、大阪府生まれ。'87年、近畿大学商経学部卒業。22歳のときに父の逝去により事業を引き継ぎ社長就任、以来現職。全国で事業を展開し、年間500万人に及ぶ顧客を獲得する。代表的な事業は「麺匠の心つくし つるとんたん」「熱海 ふふ」「Kafuu Resort Fuchaku CONDO・HOTEL」など

週刊現代』2016年12月31日・2017年1月7日号より