ブロックチェーンは「私たちの未来」をどう変えるか?

新技術の可能性について結論を急ぐな
池田 純一 プロフィール

そして『帳簿の世界史』という本の中には、複式簿記の発明に至った事情、あるいは、それによって企業が時間をかけて成長できるようになった様子もわかる。帳簿=台帳がいかにして社会を築いていったか、その足跡が記されている。

そこで通奏低音のように流れる話題が、帳簿の改竄、要するに「不正会計」が人間の社会でならまず間違いなく生じることだ。

不正会計も、事業の規模が小さいうちならばお目こぼしもあったかもしれないが、しかし、産業革命以降、事業が巨大化すると社会への影響の大きさから、会社自体が破産しないためにも、株主や政府への適切な報告のためにも、公正な立場から会計を評価する人が求められるようになった。その話を『帳簿の世界史』では、鉄道事業の誕生とともに公認会計士が現れた歴史として記している。

もちろん、公認会計士あるいは会計事務所ですら、不正に加担することもまた歴史に何度も記されていることだ。エンロンというエネルギー企業の不正会計事件を覚えている人もいることだろう。

そのような不正が、ヒューマンエラーとしてほぼ間違いなく「取引」にはついて廻ることがわかっている。だからこそ、ビットコインのような仮想通貨の世界では、暗号技術やマイニングを通じて、そうした不正を排除する努力が試みられる。

こうして帳簿のための技術の変遷が、その時々の社会状況に応じて企業構造や企業間取引のあり方にまで影響を与えてきたことを知れば、ブロックチェーンのような技術がどのような類いの変化を与える可能性を持っているか、想像を巡らすことに役立つのではないか。

具体的な社会制度として定着するには、技術の変化だけでなく、それを人間の側がどう受け止めるか、その時代的/社会的「慣性」(あるいは「惰性」)も見過ごせないからだ。『帳簿の世界史』はそのような視野や知見を与えてくれる点で参考になることだろう。

流動的でそれゆえ可能性の多々ある対象に対しては、その可能性を可能性のまま受け止めるような懐の深いアプローチが求められる。ブロックチェーンとはそのような姿勢を思い起こさせるよい機会でもあるのだ。

(池田純一氏のバックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/junichiikeda